そもそも労働者派遣事業とは?

労働者派遣事業とは、派遣元の会社が自分のところで雇っている労働者を、派遣先に送り、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために働かせることを業として行うことをいいます。

もともと、派遣事業は「労働者供給事業」といわれ、禁止されていました。これは、明治時代から昭和初期にかけて、労働者供給事業が横行し、労働者が極めて劣悪な環境の下に働かされていたからです。それが、戦後になり、労働者の立場を改善するため、労働基準法の制定、職業安定法の制定につながり、労働者供給事業は全面的に禁止されることになります。

ただ、高度成長期を向かえ、急速な技術の進歩にともない、即戦力となる人材の確保が高度成長を支える企業にとって重大な課題となり、また、労働者側もより自由な雇用形態で働きたいとの要望などにより、労働者派遣の必要性が注目され、昭和61年7月1日に労働者派遣法が施行され、一定のルールの下であれば、労働者派遣が認められることになりました。

昭和61年の派遣法制定当時は、職種等が厳しく規制されていましたが、平成11年改正、平成16年改正、平成21年改正、平成24年改正、そして今回の平成27年の改正を経て、職種等を大幅に緩和しつつ、現在の形になっています。

なお、現在でも、労働者派遣法に基づかない、労働者供給事業は職業安定法によって禁止されており、違反した場合は重い罰則が適用されます。

別に難しいことを覚える必要はありませんが、とにかく違法な派遣(=労働者供給事業)を行うと、かなりきつい罰則が待っているので、派遣業を行うのであれば、きちんと法律に則った形で行いましょうということです。

労働者派遣と近い形態として、請負事業があげられます。よく「偽装請負」と呼ばれますが、請負事業もきちんと法律に則り行えば、問題はありません(請負事業については、別のページで詳しく説明します)。

従来は、一般派遣と特定派遣に分かれていたが、現在は一本化

派遣業は、従来、2つの形態に分かれていましたが、平成27年改正でこれが一本化されました。

(平成27年改正前)
・一般労働者派遣事業(許可制)
・特定労働者派遣事業(届出制)

(平成27年改正後)

・労働者派遣事業(許可制)

つまり、法改正により、従来の一般派遣事業のみが残され、単純に特定労働者派遣事業のみが廃止された形になりました。いまだに、「特定派遣を始めたたいんですが・・・」というお電話を頂きますが、現在は、新規で特定労働者派遣事業を始めることはできません

一応、一般派遣と特定派遣の違いをご説明しておくと、一般派遣というのは、派遣労働者の方が派遣会社に登録し、派遣先がみつかったらその時点で、雇用して派遣する形態です。この場合、例えば、もともと派遣期間が3ヶ月で終了する予定の場合、その派遣期間が終了したら契約期間満了で派遣労働者の方は退職することになります。

一方、特定派遣というのは、もともと派遣会社に雇用されている常用雇用の労働者(1年以上雇用する予定の労働者)を派遣するという形態です。もともと雇用している労働者なので、派遣先での仕事が無くなっても、その後も、自社で雇用し続ける必要があります。そのため、特定労働者派遣事業を行う会社は、本来、派遣業とは別に本業があって、派遣先が無くなれば、その本業のほうで労働者を働かせるはずなのです。

平成27年の改正で特定労働者派遣事業が廃止された背景として、平成11年の大幅な規制緩和により、特定派遣を行う会社は爆発的に増えましたが、増加に伴い特定派遣なのに、派遣先が無くなったら、さっさと労働を切り捨てる派遣会社や本来、常用雇用労働者なので、雇用保険や健康保険、厚生年金に加入させなければならないのに、加入させていなかったりというい違法業者もかなりの数にのぼってしまいました。今回の改正でこれらの違法業者を一掃しようというのが一つの目的だといわれています。

派遣禁止業務へは派遣しない!

労働者派遣法には、派遣してはいけない業務が規定されています。以下が派遣禁止業務になります。

・港湾運送業務
・建設業務
・警備業務
・医療関連業務
・弁護士、司法書士、公認会計士など「士業」関連業務

より具体的な内容については「いまさら聞けない?派遣禁止業務」でまとめていますので、参照してください。

派遣業許可を取得するための要件(概要)

では、具体的に派遣業許可を取得するための要件についてまとめていきたいとおもいます。これら全てを満たしていないと許可取得ができません。

直近決算で基準資産額2,000万円以上、現預金1,500万円以上

直近の決算書の貸借対照表をみてください。その中で、資産の部の合計額から負債の部の合計額を引いた額を「基準資産額」といいますが、この基準資産額が2,000万円以上になっているかを確認してください。

次に「資産」の中の「流動資産」の「現預金」の欄が1,500万円以上になっているか確認してください。

次に「基準資産額」が負債の部の合計額の1/7以上あることを確認してください

この3つを満たしていない限り、派遣業の許可申請を行うことはできません。よく、ご質問で、「今、会社の口座に現金が2,000万以上あるのですがダメですか?」と聞かれるのですが、「ダメ」です。あくまで直近の決算の段階で満たしている必要があります。
では、直近の決算で満たしていない場合、どうするか?選択肢は2つです。
①次の決算まで待つ(もちろん次の決算で要件を満たすことが前提)
②月次決算を行い、公認会計士に監査証明を出してもらう(もちろん月次決算で要件を満たすことが前提)
上記のどちらかの対応をすることになります。次の決算が近いのであれば、①の対応でも良いでしょうが、遠い場合は②の対応をとることになります。
より詳しい内容はこちらをご覧ください。

派遣元責任者と職務代行者は必ず各1名は最低必要

派遣業を行うためには必ず、「派遣元責任者」を1名選任しなければなりません。それと同時に、派遣元責任者に何かあったときに代わって対応するための「職務代行者」も必ず1名選任する必要があります。

派遣元責任者になるためには色々な要件がありますが詳しくは「要件を満たす派遣元責任者を確保」を参照してください。

職務代行者についてはとくに資格等は必要ありませんが、注意点はありますので、詳しくは「派遣元責任者の職務代行者について」を参照してください。

派遣業を行うための事務所を確保

派遣業を行うためには業務が適正に行うことが出来る事務所を用意する必要があります。
具体的には、
・事務所にの広さが20㎡以上
・同じ事務所に複数の会社が同居していないこと(明確に区分されていればOKですが、相当厳しいです。)
・個人情報等が適性に管理できる状態にあること(鍵付きのキャビネットやシュッレッダーなどを準備)
・風俗営業を行う店舗が密集しているような地域でないこと
などがあげられます。
自宅の一室でも、要件を満たしていれば許可取得できないことはありませんが、平成27年改正後は、相当厳しいと思って頂いたほうが良いです。
事務所に関しては、その他の注意事項もありますので、「派遣業を行う事務所について」もご覧ください。

労働保険・社会保険への加入

派遣業の許可を取得するためには、適正に労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金に加入する必要があります。
常勤の役員や営業スタッフが加入するのは当然として、派遣労働者についても、週20時間以上30時間未満の勤務で雇用保険に加入、週30時間以上の勤務で雇用保険、健康保険、厚生年金に加入させなければなりません。労働者の中で、各保険に加入していない者がいる場合、許可申請の際に、その理由を記述する必要があります。

労働保険・社会保険に関してその他の注意事項は、「労働保険・社会保険への加入」を参照してください。

派遣業許可取得までのスケジュール

許可取得までのスケージュールをまとめておきます。

前提として、すでに会社設立が完了していて、上記に書いた資産要件等を満たしており(直近決算で要件を満たしている)、事務所も用意されていることを前提とします。

①派遣元責任者講習の受講
派遣元責任者になる方は、派遣元責任者講習を予約し受講。派遣元責任者講習は全国で行われており、複数の団体が開催していますが、地元での受講を希望する場合、例えば、名古屋で受講する場合は、月に1~2回程度しか開催がありませんし、予約で満席になる場合もありますので、できる限り早めに予約し、受講してください。

②教育訓練計画の作成
平成27年改正により、派遣労働者のキャリアアップに資する教育訓練計画の作成が必須となりました。適当に作った計画では、許可は通りません。体系的かつ具体的で、それが派遣労働者のキャリアアップにどう繋がるかを考えて作成する必要がありますので、ある程度時間がかかりますので、はやめに着手しましょう。

③申請書類、添付書類の準備
教育訓練計画の作成が完了したら、実際の許可申請書や計画書の作成、及び決算書や納税証明書、役員の履歴書、住民票などの添付書類の準備を始めます。

④労働局への事前相談
ある程度、申請書類・添付書類の準備が整ったら、一度、労働局へいき、問題点等がないか確認しにいきます(ご自身で申請を行う場合、一発で許可申請が通ることはまずありません。何度か労働局には出向くことになります)。

⑤本申請
何度か労働局での確認・相談が完了したら、本申請を行います。愛知労働局の場合、毎月20日が締め日になりますので、それに合わせてどのタイミングで本申請を行うか決めてください。

⑥実地調査
本申請が無事受理されると、本申請を行った月の翌月に、労働局の担当者が実際に派遣事務所に来て、実地調査を行います。実地調査では、派遣事業を適正に行うことができる体制になっているかどうかをチェックし、派遣元責任者へのヒヤリングも行われます。

⑦厚生労働省で審議会審査
実地調査で問題が無ければ、実地調査が行われた月の翌月に許可申請書が厚生労働省本省に送られ、審議会の審査にかけられます。

⑧許可証交付
厚生労働省の審議会審査で問題が無ければ、審査があった月の翌月1日に許可証が交付されます。交付式は、労働局で行われますので、派遣元責任者または代表者が受け取りにいきます。

以上、おおまかなスケジュールになります。例えば、6月20日までに労働局で許可申請書が受理された場合、7月中に実地調査が行われ、8月中に厚生労働省での審査、9月1日許可という流れになります。

労働者派遣事業報告と許可更新

事業報告

無事、派遣業の許可が取得できた後は、毎年、「事業報告」を労働局に提出しなければなりません。これらを怠ると是正勧告が出されることがあるので忘れずに行いましょう。

事業報告は3種類あります。これらは、派遣事業を行った実績がなくても、許可を持っている以上は提出する必要があります。

①労働者派遣事業報告書(様式第11号)
毎年、6月1日現在の状況報告と直近の決算の事業年度内の状況に関する報告になります。提出期限は毎年6月末日です。実際に派遣した労働者の人数や派遣料金、派遣労働者の賃金、どのような教育訓練を行ったかなどを報告します。

②労働者派遣事業収支決算書(様式第12号)
決算終了後3ヶ月以内に決算書と共に提出します。文字通り決算の内容を報告します。

③関係派遣先派遣割合報告書(様式第12-2号)
グループ企業に対してどれくらいの割合で派遣を行ったかを報告します。多くの派遣会社はグループ企業への派遣を行っていないと思いますが、グループ企業へ派遣していなくても提出しなければなりません。
提出期限は、決算終了後3ヶ月以内なので、通常、②の労働者派遣事業収支決算書と併せて提出します。

許可更新

新規で派遣業の許可を取得した場合、その有効期間は3年になります。1度更新したら次の有効期間は5年になります。許可更新手続は、新規で許可を取得する手続と大差があるわけではありませんので、もう一度、許可を取得するようなイメージになります。そのため、直近の決算で許可取得と同様の資産要件を満たすことを求められるので、更新が近づいてきたら慎重に決算を組む必要があります。

許可申請の代行は是非、専門家へ

派遣業の許可申請は、なかなか一筋縄ではいかない場面も多々あります。そんなとき、是非、派遣業の専門家へ申請の代行を依頼することも是非、検討してみてください。
私どもでも、愛知県限定ですが、許可申請の代行をやらせて頂いております。平成27年改正前からの件数も含めますと、愛知県のみで100社以上申請させて頂いておりすべて受理されております。
一番手間のかかるキャリアアップに資する教育訓練計画の策定についてもお手伝いさせていただきますので、ご自身で行うよりもかなり早く申請が可能となります。是非ご検討ください。
ご興味のある方は、無料相談を行っておりますので、下記のフォームよりお申込みください。
無料相談お申込みフォーム