みなし残業?固定残業?正しく理解してますか?

今回は、みなし残業について解説していきたいと思います。みなし残業という言葉は聞いたことがあると思いますが、実は、会社によってその内容は大きく異なります。みなし残業は、大きく分けて、みなし労働時間制に基づくみなし残業という意味で使われる場合と、定額の残業代を支払うという意味で使われるみなし残業があります。今回は、このうち定額の残業代を支払うみなし残業について詳しく解説したいと思います(みなし労働時間制に基づくみなし残業についてはいずれ解説したいと思います)。

定額残業代を支払うみなし残業とは

定額残業代を支払うみなし残業は、別の言い方で「固定残業制」とも言われたします。よく会話の中で「うちは固定残業だから、残業代がこれ以上でない」と言われる場合があります。少し詳しく見てみましょう。

定額残業代とか固定残業代というのは、文字通り、あらかじめ一定額の残業代を支払うというものです。
例えば、給与明細に「基本給200,000円、固定残業代20,000円」となっていれば、2万円分のみなし残業代・固定残業代が支払われていることになりますし、これ以外に、給与明細上は「基本給220,000円」としかなっていないが、会社と交わした労働契約書の中では「基本給22万円(うち2万円は固定残業代とする)」という表現や「基本給22万円(この中に15時間分の時間外手当を含む)」といった表現で、固定残業・みなし残業を実施している場合もあります(本来、労働契約書だけでなく、給与明細上も基本給と固定残業・みなし残業を分けて記載すべきとされています)。

この一定額の残業代を支払うことによって、それに対応した時間までの残業代は会社は支払う必要がありません。ただ、実際に行った残業がこの固定残業代では足らない場合は、本来、会社は追加で支払わなければなりません。この点についてのトラブルが多いので詳しくご説明します。

固定残業・みなし残業でのトラブルとなりやすいポイント その1

固定残業・みなし残業で最もトラブルが多いのは次の場合です。

例えば、先の例でAさんは基本給200,000円、固定残業20,000円の給与でB社で働いているとします(その他の手当てはない)。このB社の1ヶ月平均の所定労働時間は170時間だとします。

ある月に20時間の残業(休日出勤は無いものとする)を行った場合、本来の残業代はいくらになるでしょうか?

Aさんの時間外労働の単価は、基本給200,000円÷170時間×1.25=1,471円です。

固定残業代20,000円でまかなえる残業時間は、20,000円÷1,471円=13.596時間=約13時間35分となります。

Aさんは20時間分の残業をしているので、残り20時間-13時間35分=6時間25分の残業代=1,471円×6時間25分=9,439円を追加でB社はAさんに支払わなければなりません。

しかし、この追加の残業代を支払っていない会社が多いのです。会社側も労働者側も、固定残業代・みなし残業代をもらっているとそれ以上、残業代は出ないと思い込んでしまっている方達が少なくありません。

しかし、これは明確な残業代未払いにける労働基準法違反になります。

そもそも、固定残業代制やみなし残業代制を採用しても、法律を厳格に遵守するのであれば、会社側にメリットはほとんどありません。なぜなら、固定残業代で支払う金額以上の残業を労働者が行えば、説明したように追加の残業代の支払いが必要になるにもかかわらず、逆に固定残業代で支払う金額の残業時間以下の残業しか労働者が行わなかったとしても、労働者からその分の返却を求めることは出来ないからです。

唯一の会社のメリットといえば、固定残業代未満の残業しか行わないのであれば、給与計算が若干簡単になることくらいです。

にもかかわらず、固定残業代制を採用するのは、先にも書いたように固定残業代を払えば、どれだけ残業をさせてもそれ以上は残業代支払わなくても良いと考えている会社が多いためです。

すでに説明しているように、そんなことはありませんので注意が必要です。もし、今働いている職場がそのような対応をしているのであれば、不足分を会社に請求することが可能です。

固定残業・みなし残業でのトラブルとなりやすいポイント その2

その1の例では、Aさんの給与は基本給200,000円、固定残業20,000円となっていましたが、極端に基本給が低く、固定残業代が高い場合も見受けれます。

例えば、労働契約書の中で「基本給22万円(うち10万円は固定残業代とする)」といった感じです。

一見、極端ではありますが、法律上は問題ないのではないかと思われがちですが、この場合、基本給22万円のうち10万円は残業代なので、純粋な基本給は12万円になります。フルタイムの勤務だとすると、一般的な1ヶ月の労働時間はだいたい170時間前後だと思いますので、この12万円を170時間で割ると1時間あたり約706円となります。つまり時給706円です。

これだと、最低賃金に違反しています(最低賃金については、こちらの記事「今月(H29年10月)から最低賃金が引き上げ、最低賃金の疑問」をご覧ください)。

最低賃金は、最も低い沖縄県でも現在(平成29年10月現在)は、「737円」なので、どこの都道府県で働いていたとしても、最低賃金法違反となります。

固定残業・みなし残業でのトラブルとなりやすいポイント その3

その1の例ではAさんの給与は基本給200,000円、固定残業20,000円と明確に、固定残業代がいくらに設定しているかが明確になっていますが、実はこれが明確になっていないケースが少なからずあります。

例えば、労働契約書や給与明細には基本給22万円、職務手当1万円、役職手当1万円としか書いていないのに、最後に「みなし残業代を含む」と書かれている場合です。これだと、何時間分の固定残業代がどこに含まれているか全く分かりません。しかし、会社側はこの「みなし残業代を含む」という一文を楯に、全く残業代を支払わない場合があるのです。

固定残業代制を採用するためには、何時間分の残業代をどこに含めるのかを明確に規定しなければなりません。これが規定されていなければ、そもそも固定残業代制は無効になるので、こういった会社の場合は、いくら「みなし残業代を含む」との一文があったとしても、1分でも残業をしたら、追加で会社側は残業代を追加で支払わなければなりません。

また、そもそも労働契約書自体を交わしていないという会社も零細企業だと少なくありません。面接の際に、「うちは固定残業だから」との説明だけで採用してしまうケースがあります(給与明細などには固定残業代がいくらか明確になっていない)。この場合でももちろん固定残業代制を採用したことになりませんので、1分でも残業したら会社は追加の残業代の支払いが必要になります。 

まとめ

上記で何度も述べているように、みなし残業代制や固定残業代制を採用していれば、どんなに残業をしてもそれ以上残業代を支払う必要がないということは決してありません。

労働者が固定残業代以上の残業を行えば、必ず追加の支払いが必要になりますし、そもそも固定残業代がいくらになっているか明確になっていない場合は、固定残業は無効になります。

みなし残業制や固定残業代制は、本来であれば会社側にメリットがないにもかかわらず、現実には労働者側が不利益を被っているケースが少なくありません。ぜひ、この記事を参考にご自身の残業代についてチェックしてみてください。

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