年金が減らされる?在職老齢年金の仕組みと勘違い

現在、日本の多くの会社の定年年齢は、60歳ですが、高齢者雇用安定法により、65歳までの継続雇用が義務付けられています。そのため、現在の労働力不足もあいまって、65歳まで働く方、あるいは70歳くらいまで働く方なども増えてきています。国自体も積極的に高齢者雇用を推進していることも大きいでしょう。

60歳以降も働く方にとって、気になるのは「年金」のことではないでしょうか?

「年金を貰いながら働くと、年金が減らされる!」というのは、聞いたことがあると思います。でも、みなさん、なんとなく聞いたことがあるといった程度で、細かい点まで理解している方は少ないように思います。働いている方がの年金が減額される仕組みを正式には「在職老齢年金」といいますが、今回は、この「在職老齢年金」のしくみと世の中にはびこっている勘違いを解説していきたいと思います。

在職老齢年金とは? 実は勘違いしている人が多い?

冒頭でも書いたように、年金を受給している方が働いて給与を貰う場合、一定の要件に該当する方については、年金が減額されてしまうのですが、これを「在職老齢年金」といいます。

まず、この「在職老齢年金」の対象になるのは、「老齢厚生年金のみ」という点に注意してください。老齢年金は、国民年金から支給される「老齢基礎年金」と厚生年金から支給される「老齢厚生年金」がありますが、このうち減額の対象になるのは厚生年金から支給される「老齢厚生年金」のみです。そのため、例えば仮にずっと自営業しかしてこなかった方は、65歳から老齢基礎年金のみしか受給できませんが、65歳以降も自営業を今までどおり続けたとしても、この老齢基礎年金が減額されることはありません

また、老齢を理由とする年金以外の年金、例えば「障害年金」や「遺族年金」も同様に減額されることはありません。

よく、すべての年金が減額の対象になっていると勘違いしている人がいますは、そうではなく数ある年金の中でも、在職老齢年金になるのは「老齢厚生年金」だけです。

もう一つよくある勘違いとして、さきほど説明したように減額の対象になるのは「老齢厚生年金」だけですが、これを受給している人がどのような働き方をしても減額されるのかというとそういうわけではありません。例えば、60歳以降に、個人事業として自営業を開始して収入を得た場合や株式投資等で利益を得た場合などは、どれだけ高額の収入や利益を得たとしても、減額はされません

また、どこかの企業に勤めて給与を得たとしても、その会社で「厚生年金」に加入しなければ、減額の対象にはなりません。例えば、パートタイマーなど、短い時間で働く場合等です(平成28年(2016年)10月1日以降は、一部のパートタイマーについても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられましたので、パートタイマーであっても社会保険に加入するかたは減額の対象にななります)。パートタイマーやアルバイトとして働く場合で、社会保険に加入しないのであれば、減額の対象にはなりません。

在職老齢年金の仕組み(65歳未満)

では、具体的な在職老齢年金の仕組みをご説明したいと思います。

実は、在職老齢年金の仕組みは65歳未満で受給する「老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金」と65歳以降に受給する「老齢厚生年金」とでその減額の仕組みが異なります。65歳未満のほうが減額幅が大きくなります。

まずは、65歳未満の老齢厚生年金の減額の仕組みを見ていきたいと思います。

いくら減額されるかを計算する際に、必要となる数字があります。それは「基本月額」と「総報酬月額相当額」です。

「基本月額」とは今貰っている老齢厚生年金(老齢基礎年金は含めません)を単純に12で割った月額相当額になります。

「総報酬月額相当額」はちょっと難しいですが、簡単に言うと現在貰っている給与の月額(正確には標準報酬月額)と過去1年間に支払われた賞与(正確には標準賞与額)を12で割った額を足した額になります。

この「基本月額」と「総報酬月額相当額」の合計額によって、年金がいくら減らされるかが決まります。

65歳未満で受給する「老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金」に関しては、この合計額が28万円以下のときは、減額されません。つまり、年金は全額支給となります。

合計額が28万円を超える場合は、以下のような計算式によって、減額幅を計算します。

少し分かりやすくするために計算例をあげたいと思います。

「老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金」の年額が216万円、給与の月額が26万円、賞与は年間48万円のAさんの場合、いくら年金は減額されるでしょうか?

まず、「基本月額」を計算します。

基本月額は年金の216万円を12で割った月額ですので、216万÷12=18万円となります。

つぎに「総報酬月額相当額」を計算します。Aさんの月額給与の標準報酬月額は26万円、これに賞与の48万円を12で割った額、48万÷12=4万円を足した額になりますので、26万円+4万円=30万円これが総報酬月額相当額になります。

つまり、基本月額は28万円以下、総報酬月額相当額も46万円以下ということで、上記表の②が適用されます。

計算式にあてはめると、(26万円+30万円-28万円)×1/2×12=120万円となり、Aさんの場合は、年金が120万円減額されることになります。

月額だと10万円も減らされることになります。

このように、65歳未満の場合の減額の仕組みは、それほど給与が高くなくてもかなり減額幅が大きくなりますので、注意が必要です。

在職老齢年金の仕組み(65歳以上)

次に65歳以上の方の老齢厚生年金の減額の仕組みをご説明します。

65歳以上の方の減額の仕組みは、65歳未満の方のときの場合と比べて、かなり緩くなります。

65歳未満の場合、「基本月額」と「標準報酬月額相当額」の合計額が28万円以下であれば、減額はありませんでしたが、65歳以上の場合、これが46万円以下になります。つまり「基本月額」と「標準報酬月額相当額」の合計額が46万円以下であれば、年金の減額はありません。46万円を超える場合は、以下の計算式によって減額幅を計算します。

こちらも分かりやすくするために計算例をあげてみます。

Bさんの老齢厚生年金の年額は192万円、給与の月額は32万円、賞与の年額は120万円です。この場合、いくら減額されるでしょうか?

まず、基本月額は192万円÷12=16万円になります。次に総報酬月額相当額は、32万円+(120万円÷12)=42万となります。

これを上記計算式に当てはめます。

(42万円+16万円-46万円)×1/2×12=72万円

となり、Bさんは72万円の年金が減額されることになります。月額だと6万円になります。65歳未満の方の場合と比べると、給与額が大きいにもかかわらず、減額幅が小さいことがわかります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?「思っていたより減額されるんだな~」と感じた方も多いのではないでしょうか?特に65歳未満の方の場合は、かなり年金が減らされることになります。

もちろんお金の問題だけでなく、働くことで得られる「やりがい」なども重要なので、年金の減額だけをもって、60歳以降の「働き方」を決めるわけではありません。

また、減額はされますが、その間は厚生年金に加入しているので、退職すれば、年金は再計算され、保険料を納めた分、増額されることにもなりますので、完全にリタイアした後の生活を豊かにするという目的で減額されても働き続けるという選択は、間違いではないと思います。

いずれにしろ60歳以降の働き方については、色々な要素を考慮しつつ、慎重に考えたほうが良いでしょう。

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