人事労務部

高額療養費制度で損しないための4つのポイント

入院や手術をして、病院に支払う金額が高額になったときに、健康保険からお金が返ってくる制度があることは、なんとなくご存知の方も多いと思います。
これを「高額療養費制度」といいますが、なんとなくは知っていても、実際に自分はいくら返ってくるのか、収入によって差があるのか、申請はどのようにしたら良いのか、被扶養者でも対象になるのか、健康保険の種類によって金額に差があるのかなど、細かい点になるとご存じない方も多いと思います。
そこで、今回は、意外と複雑な「高額療養費制度」について社会保険労務士が分かりやすく解説していきたいと思います。

 

高額療養費制度とは?

高額療養費は、入院や手術などで病院に支払う医療費の保険適用後の自己負担額が高額になった場合に、収入等に応じた一定の金額を超えた分について、返ってくる制度です。
もう少し詳しく見ていきます。
高額療養費制度は、年齢と収入によって、以下のように「自己負担限度額」が決められていて、この自己負担限度額を超えた分が払い戻されることになります。

70歳未満の方の場合

上記表の左の適用区分の年収をご自身の年収に当てはめていただければ、おおよその区分が判断できます。現在、会社員や役員等で会社で健康保険に加入されている方でご自身の標準報酬月額が分かっている方は、ご自身の標準報酬月額を上記の表に当てはめてください(例えば、アの欄の「健保:標報83万円以上」というのは、正確には標準報酬月額が83万円以上の方となります)。標準報酬月額というのは、お給料の額によって決められた金額です。基本的には、4月から6月の3ヶ月間に支払われた給与額の平均額で決定されますが、詳しくは会社の社会保険の担当者の方に確認してください。自営業者等で国民健康保険に加入している方は、上記表の「国保」と書かれた横の所得の金額をご自身の所得に当てはめてください。
そして表の右側の「ひと月上限額」の欄で計算された金額を超えた分が払い戻されることになります。

例をあげてご説明します。

例えば、区分ウの方(会社員だと標準報酬月額28万円~50万円の方)が入院・手術をして、その月に100万円の医療費がかかったとします。ここでいう医療費は、3割負担の額ではなく、実際にかかっている総額です。総額で100万円なので、窓口で支払う負担額は、この3割の30万円になります。しかし、この高額療養費制度によって自己負担の上限額は上記の表のように定められているので
自己負担上限額=80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円となります。
この方の上限額は87,430円なので、先ほど30万円からこの金額を引いた額=30万円-87,430円=212,570円となり、この212,570円が、高額療養費として払い戻される額になります。

上記からもわかるように、会社の健康保険でも市区町村の国民健康保険でも、高額療養費に関しては、基本的に払い戻される金額に差はありません。

70歳以上の方の場合

70歳以上の方の自己負担額の上限は下記の表のようになります。70歳未満の方の場合に比べて、さらに引き下げられていることがわかります。どんなに収入が高くても、自己負担上限額は、70歳未満の方の表の「区分ウ」と同額が最高額となります。
また、特徴として、70歳以上の方のみ、外来だけの上限額が別途設けられています。例えば、年収156万円~370万円の方が、1ヶ月で外来だけ通院した場合の窓口負担額が20,000円だった場合、この方の自己負担上限額は、下記の表の通り12,000円なので、8,000円が払い戻されることになります。

自己負担額は、世帯で合算できる!ただし、条件あり。

分かりやすいように例をあげてご説明します。
例えば、年収370万円未満のご家庭で、お父さんが会社で健康保険に加入していて、奥さんと娘さんは被扶養者として扶養に入っています。
ある月、お父さんが怪我をして、病院に何回か通い、その月の窓口での支払額は5万円でした。年収370万円未満(標準報酬月額だと26万円以下)の場合、自己負担の上限額は、57,600円なので、5万円だと、払い戻される金額はありません。ただ、この同じ月、娘さんが風邪をひいて、お父さんとは違う病院でしたが、3万円の窓口負担が発生していました。
こういった場合に、お父さんと娘さんの治療にかかった窓口負担額は、合算できるので、この月の窓口負担額は8万円かかっているので、8万円-57,600円=22,400円が高額療養費として払い戻されることになります。
※注意点として、70歳未満の方の場合、自己負担額が21,000円以上のものしか合算できません。例えば、先の例で、娘さんの窓口での支払額がもし2万円だったら合算できないので、この月は、残念ながら高額療養費の対象とはならなくなってしまいます。

合算できない場合

家族だからといって、すべて合算できるわけではありません。基本的に、同じ健康保険に加入していることが条件になります。先の例では、お父さんの健康保険の被扶養者として奥さんも娘さんも加入しているので、この3人については合算できます(ちなみに別居していても、健康保険上の扶養に入っていれば合算できます)。
しかし、例えば、共働き夫婦で、それぞれがそれぞれの会社で健康保険に加入している場合、この夫婦分は合算できません(この場合は同居していても合算できません)。
自営業などで国民健康保険に加入している場合は、同一世帯として国民健康保険に加入しているご家族分は合算できます。
また、75歳以上のかたなど、後期高齢者医療制度に加入されている場合は、その方の分も合算できません(例えば、夫婦二人とも後期高齢者医療制度で同一世帯の場合は、この二人分については合算できます)。

さらに自己負担額が低くなるしくみ

高額療養費制度では、過去12ヶ月以内に、すでに3回(3ヶ月分)、高額療養費の対象となっている場合に、4回目からは、さらに自己負担額が低くなる仕組みが導入されています。
以下の表を見てください。表の「多数該当の場合」の金額が4回目以降の自己負担額の上限になります。

例えば、70歳未満の方で、上から2番目の区分イに該当する方の場合、総医療費が100万円かかった場合、
3回目までは、167,400円+(100万円-558,000円)×1%=171,820円が自己負担の上限でしたが、4回目からは93,000円が上限となります。

高額療養費はどのように申請するか?

10年ほど前までは、高額療養費の申請は、入院・手術等をして、一旦窓口で、3割の自己負担額を支払った上で、後日、高額療養費支給申請書を協会けんぽ等の各保険者に提出して、支給を受けるという形の事後申請方式のみでした。
しかし、医療費が高額になった場合、一時的にせよ、多額の現金を用意しなくてはならないため、患者さんにとっては、負担になることも少なくありませんでした。
そこで平成19年に新たな制度として、事前に各保険者に申請することで「健康保険限度額適用認定証」の交付を受けることができ、この健康保険限度額適用認定証を提示することで、患者さんは、窓口での支払いは、高額療養費を適用した上での自己負担限度額のみを支払えば済むようになりました。
もちろん、現在も事後申請方式での申請も可能です。

限度額適用認定証の交付はどのように受けるのか?

各健康保険によって、若干の違いがありますが、概ね以下のように申請します(協会けんぽの例で説明します)

①病院等を受診し、入院することが決まる

②限度額適用認定申請書を作成。
 限度額適用認定申請書はこちらからダウンロードできます(協会けんぽ用です。国民健康保険の方は各市区町村へ、健康保険組合の方はお勤めの会社にそれぞれお問い合わせください)。
 限度額適用認定申請書の記入例は以下になります(クリックすると拡大できます)

③限度額適用認定申請書を協会けんぽへ郵送で提出(提出先は健康保険証の下のほうに記載されています)
 国民健康保険の方は、各市区町村役場で手続を行いますが、多くの市区町村では郵送での受付等は行っていないようですので、直接、窓口に行く必要があるようです。また、国民健康保険の場合、国民健康保険料の滞納等があると申請ができません。

④後日、「健康保険限度額適用認定証」が郵送されてくるので、これを病院へ提示
(高額療養費制度が適用されるかどうかは、病院と保険者とのレセプト等のやり取りで自動的に計算されるので、本人は特にやることはありません)
ちなみに限度額適用認定証は以下のようなものです(協会けんぽの場合)

⑤退院時や月が替わったときに、窓口で必要額の支払を行う(高額療養費が適用されれば、自己負担限度額を支払い、高額療養費に該当しなければ、通常の費用を支払う)

※限度額適用認定証の有効期間は、協会けんぽの場合、申請月の初日から起算して、最長で1年間になります(1年以内の期間で本人が申請書に記入します)。国民健康保険の場合は、申請した月の初日から直近の7月31日までになります。

限度額適用認定証の交付を受けない場合の申請方法

先ほども書きましたが、限度額適用認定証の交付を受けずに、一旦窓口で3割負担の医療費を全額支払い、後日、高額療養費の支給を受けることももちろん可能です。その場合の申請方法をご説明します(協会けんぽを例にご説明します)。

①病院等を受診し、入院することが決まる

②退院時や月が替わったときに、窓口で3割負担の金額の支払を行う(高額療養費の対象となる)。領収書や診療明細は大切に保管してください(ただ、申請に添付は必要ありません)

③高額療養費支給申請書を作成
 高額療養費支給申請書はこちらからダウンロードできます(協会けんぽ用です。国民健康保険の方は各市区町村へ、健康保険組合の方はお勤めの会社にそれぞれお問い合わせください)。
 高額療養費支給申請書の記入例は、こちらからダウンロードできます(協会けんぽ用)。
記入する上での注意点としては、申請書の2枚目は複数枚になっても良いので、受診月ごと、医療機関ごと、院外処方などの薬局も別で記入することが必要です。また、家族が同じ月に受診していて、そちらも対象になるようでしたら、家族ごとに記入する必要があります。
自己負担額を記入する欄がありますが、これは、病院等の領収書の「一部負担金」欄に書かれている数字を転記してください。

④高額療養費支給申請書を協会けんぽへ郵送
 国民健康保険の場合は、高額療養費の対象に該当する場合は、市区町村からはがき等で該当していることを知らせてくれるところも少なくありません。もし、はがきが届いたらそのはがきを窓口に持参して、手続きを行います(はがきが届かなくても、該当している場合は窓口で相談してください)
 協会けんぽへの請求の場合は、医療費の領収書等の添付は必要ありませんが、国民健康保険の場合は、領収書の添付が必要なところが多いようです(詳しくは各市区町村にお問い合わせください)

⑤だいたい3ヶ月程度で指定口座に高額療養費が振り込まれます。

まとめ

できるだけ分かりやすくご説明したかったのですが、高額療養費制度は、細かいところまで見ていくと、実は、かなり複雑です。特に、多数回該当する場合やご家族の分を合算する場合などのうち、シンプルなケースであれば、特に問題ないのですが、状況によっては、複雑なケースも出てきますので、もし、疑問に思ったら、加入されている健康保険の各保険者(協会けんぽなど)にお問い合わせください。

高額療養費に関しては、また、別の機会に、別の角度でご説明したいと思います。

 

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