「失業保険」や「失業給付」という言葉はよく聞くと思います。退職後に国から貰えるお金くらいに考えている方も多いのではないでしょうか?
ただ、この失業保険、意外に制度自体が複雑で会社を辞める前にしっかり内容を把握しておかないと、いざ退職後に受け取ろうとすると、すぐには受け取れない、あるいは、もらえる金額が減ってしまったり、、制度を良く知らなかったためにトラブルにつながったりすることもあります。
そこで今回は、失業保険を受け取るための最低条件や実際の手続方法、トラブルにならないためのポイントなどについて、現役の社会保険労務士が解説します。
失業保険ってそもそも何?
これにより、失業者は安心して再就職活動に専念することができます。再就職活動に専念できれば、希望する職種や希望する給与を支払ってくれる会社に就職がしやすくなります。
失業保険を受給するための条件とは?
失業保険は雇用保険に加入していさえすれば全員が貰えるわけではありません。受給するには条件があります。また、その条件もどのような理由で退職したかによって3つに分けられます。それぞれの条件について解説していきます。
1. 自己都合により退職の場合
いわゆる「一身上の都合」により退職した場合です。今の会社が単純に嫌になったからとか、もっと条件の良い会社に転職するためだとか、資格を取るために時間を作るため退職するとか、働いている方の都合によって自発的に退職をした場合が「正当な理由なし」の「自己都合退職」になります。病気や怪我のため仕事が続けられたくなった場合や家族の介護のためなどで自発的に退職した場合は「正当な理由あり」の「自己都合退職」になります。「正当な理由あり」と「正当な理由なし」で受給条件等が変わってきます。
「正当な理由なし」の場合の受給条件
・離職日以前の2年間に、被保険者期間が1年以上あること
・待期期間7日間満了後、3カ月の給付制限期間があります。
※被保険者期間とは、雇用保険に加入していた期間をいいます。
※「3ヶ月の給付制限」とは、簡単に言うと、手続を開始してから3ヶ月経たないと失業保険が貰えないということになります。
「正当な理由あり」の場合の受給条件
・離職日以前の1年間に、被保険者期間が6カ月以上あれること(「正当な理由なし」と比べて半分でOK)
・待期期間7日間満了後、すぐに受給できます(給付制限期間がない)
2.会社都合退職の場合
会社の倒産や事業所の廃止、休止、又は人員整理等の会社都合による解雇の場合、天災をはじめとして会社の責任ではないやむを得ない理由によって会社の継続が不可能になったことによる解雇、会社からの退職するように勧奨をうけたことによる場合(退職勧奨)、希望退職募集への応募(人員整理が目的で措置導入が離職前1年以内で募集期間3ヶ月以内のもの)など、基本的に辞めざるを得なかったような場合を指します。
【受給条件】
・離職日以前の1年間に、被保険者期間が6カ月以上あれること
・待期期間7日間満了後、すぐに受給できます(給付制限期間がない)
3.その他の場合
就業規則等で定められた定年年齢に達したことによる退職や定年後再雇用されその雇用期限が到来した場合、契約更新があることの明示が無い雇用契約の契約期間満了での退職、あるいは、契約更新できたのに自ら契約更新したかった場合による退職などの場合を指します。
【受給条件】
・離職日以前の2年間に、被保険者期間が1年以上あること
・待期期間7日間満了後、すぐに受給できます(給付制限期間がない)
失業保険はいくら貰えるのか?
では、失業保険はいったいいくら貰えるのでしょうか?
失業保険の額の計算は次の計算によって行われます。
失業保険の額=「基本手当日額」×「所定給付日数」
基本手当日額とは?
では、この中の基本手当日額とはどういうものかご説明します。
基本手当日額はさらに次の計算式で求めることになります。
「賃金日額×給付率」
これを計算するためにまず賃金日額を計算しなければなりません。
賃金日額は、
「退職前6ヶ月間にもらった賃金の総額を180で割った金額」になります。
退職前6ヶ月にもらった賃金と言っても賞与や退職金は含めません。
例えば、6月末で退職した場合で、その会社の給与の締日が末日だった場合、1月分から6月分までの月次の給与の総額を180で割った金額になります。先ほども書いたように賞与や退職金は含めませんが、毎月貰う交通費や歩合給などはここに含まれます。
次に「給付率」ですが、以下の表のようになります。
(クリックで拡大できます)
この表のように、給付率は賃金日額と年齢によって変わってきます。上は80%下は45%の範囲で決定しますが、かなり複雑な計算になるので、ハローワークに問い合わせたほうが早いです。
所定給付日数とは?
所定給付日数は、先ほどの基本手当を受給できる日数のことです。所定給付日数は年齢、雇用保険に加入していた期間、退職理由などによって変わります。
1.「正当な理由のない自己都合退職」および「その他」の場合
2.「会社都合退職」及び「正当な理由のある自己都合退職の場合」
3.「就職困難者」の場合
就職困難者とは、身体障害者、知的障害者、精神障害者、保護観察中の方、社会的事情により就職が著しく阻害されている方等を指します。
失業保険トラブル事例
失業保険に関するトラブル事例をいくつかまとめてみました。
会社が離職票をくれない!
失業給付を受給するためには、退職した会社から雇用保険の「離職票」というものを発行してもらわなければなりませんが、退職後、いくら待ってもこの「離職票」が届かない場合があります。
離職票は、会社が職安に書類を提出して行うものですが、退職者に対する会社の対応は、会社によってまちまちです。基本的に離職票の発行は、従業員の方が会社を辞めたら必ず発行するのではなく、辞めた従業員の方から発行の希望があった場合のみ発行手続を行う会社が多いようです。そのため、発行の希望を伝えていないのであれば、まず、会社へ発行してほしい旨を伝えましょう。
会社に離職票を発行してほしい旨は伝えているが、なかなか離職票が届かないといケースもよくあります。雇用保険の資格喪失手続は退職日の翌日から10日以内と一応は決められているので、10日経っても届かないようでしたら、電話で問い合わせてみましょう。中小企業等だとどうしても、社会保険や雇用保険の専任の担当者がいることは少なく、事務の方が何役もこなしているケースが少なくないので、忙しくてなかなか職安に行けないということも充分考えられます。もし、早めに離職票がほしいのであれば、退職時にその旨を会社に伝え、何日くらいで発行されるかかくにんしておくと良いでしょう。
離職票に書かれた退職理由が自分が思ってたのと違う!
会社都合で辞めさせられたと思っていたのに、貰った離職票には「自己都合退職」になっていたというケースは少なくありません。「会社都合」と「自己都合」では、給付制限や給付日数で大きな差がありますので、重要です。離職理由が違っていた場合、前の会社に言って訂正してもらうのが一番良いですが、前の会社には連絡したくないという方も多いのではないでしょうか?
その場合は、ハローワークに行き、事情を説明しましょう。そうすると、ハローワークの担当者から、会社へ連絡してくれます。そこで、事情を聞いて、退職理由が間違っていれば訂正してくれます。
まとめ
退職後、何も考えないまま、失業保険の手続を行うと、損する場合もあります。特にトラブル事例でもご紹介したように、退職理由が異なっていたり、さらには、離職票にかかれた退職前6ヶ月間の給与額が実際とは違っていたなんてケースもあります。これらは、貰える金額にも大きく関係してきますので、会社から離職票を貰ったら、必ず退職理由、給与額等をチェックしましょう。