国民年金から支給される老齢基礎年金は、原則として65歳から支給されますが、60歳から繰り上げて貰うことも出来ますし、逆に70歳まで繰り下げてもらうことも可能です。もちろん、繰り上げて貰うのであれば、その分、年金額は減額されますし、繰り下げるのであれば、年金額は増額されます。 実は、通常通り、65歳から老齢基礎年金を受給する人は全体の約65%、繰り上げて受給する人は約35%、繰り下げる人は、ほとんどいなくて1%前後と言われています。ということで3人に1人は繰り上げ受給を選択しているのですが、本当に、繰上げすることが得なのか、損なのかを解説したいと思います。
老齢基礎年金とは?
老齢基礎年金は、国民年金から支給される老齢を理由とした年金です。自営業者として国民年金保険料を直接納めていた方はもちろん、会社員などで厚生年金に加入していた方は、その期間は、同時に国民年金の保険料を納めていたことになるので、会社員だった方も受給できます。 老齢基礎年金を受給するためには、保険料を納めた期間、保険料を免除された期間、合算対象期間を合わせて10年以上の期間が必要です(平成29年3月までは、この期間が25年必要でしたが、現在は10年でも受給できます)。 国民年金保険料を20歳から60歳までの40年間きっちり納めると、65歳から満額の老齢基礎年金が受給できます。平成29年度の満額の老齢基礎年金の額は779,300円になります。40年保険料を納めた場合の額なので、仮に10年しか保険料を納めていない場合は、この金額の4分の1になります。
老齢基礎年金の繰り上げ支給と繰り下げ支給のしくみ
老齢基礎年金は、そきほども書いたように、原則としては65歳から受給することになりますが、60歳から65歳になるまでの間であれば、月単位で繰上げ受給が可能です。繰上げ受給した場合は、その請求をした時点の年齢(月単位)に応じて老齢基礎年金は減額されることになります。一旦、繰上げ請求をしたら亡くなるまで、その減額された老齢基礎年金を受給することになります。途中で変更することはできません。 繰上げの方法には全部繰上げと一部繰上げがあります。 では、どれくらい減額されるかですが、以下の計算式で計算されます。
減額率=0.5%×繰上げ請求月から65歳に達する日の前月までの月数
この計算式だけだと、ちょっと分かりにくいですね。以下の表を見てください。
上記は、減額率を一覧表にしたものです。
例えば、60歳繰0カ月を見ると「30.0」となっています。つまり減額率は「30%」ということになります。63歳7カ月のところを見ると「8.5」になっています。つまり減額率「8.5%」ということになります。
60歳0カ月で老齢基礎年金を繰り上げ受給した場合は、減額率30%なので、もし、満額の老齢基礎年金を受給できる方であれば、779,300円×70%=545,510円になるということになります。減額されたのは、233,790円です。
では、逆に繰り下げの場合は、どうなるでしょうか?
先ほども述べたように、繰り下げを選択する人はごくわずかです。でも、実は増額率は、減額される率よりも高く設定されています。計算式は以下のとおりです。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までに月数)×0.7%
減額のときは月当たり0.5%減額でしたが、繰り下げは0.7%の増額になっています。
仮に、70歳まで繰り下げた場合は、42%の増額になります。もし満額の老齢基礎年金を受給できる方であれば、779,300円×142%=1,106,606円となります。
60歳から繰り下げ受給した方の年金は545,510円でしたので、倍以上の差が出ることになります。
繰り上げ、繰り下げは得か損か?
繰上げすること、繰り下げすること、あるいは通常通り受給することのうち、どれが一番得するかは、一概には言えませんが、65歳から受給する場合を基本として、65歳と比べて60歳から繰り上げ受給した場合、と70歳まで繰り下げ受給した場合の損益分岐点を考えたいと思います。
まず、60歳から繰り上げ受給した場合、年金額の累計が受給開始から16年8ヶ月で通常通り65歳から受給を開始した方と比べて、受給額が少なくなります。つまり、76歳8ヶ月までは、60歳から繰り上げ受給した方のほうが年金の受給累計額が多いですが、それ以降は通常通り65歳から受給した方のほうが累計額が多くなることになります。
一方、70歳から繰り下げ受給した場合はどうでしょうか。この場合は。受給開始から11年10ヶ月で、通常どおり65歳から受給した方の累計額を超えることになります。つまり、81歳9ヶ月までは、通常通り65歳から受給した方のほうが累計額が多いですが、それ以降は70歳から繰り下げ受給した方のほうが累計額が多くなります。
2016年の日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳となっています。仮に、平均寿命まで生きることが確定しているのであれば、単に累計額だけ計算すると女性は繰り下げしたほうが得ですし、男性は通常通り65歳から受給するのが得ということになります。
まとめ
単純に累計額と平均寿命だけ考えれば、さきほど説明したように繰上げすることのメリットには無い様に思いますが、年金を受給する時の健康状態によっても大きく変わるでしょうし、健康状態だけでなく、経済状態や家族構成等にも大きく左右されると思います。
また、さらに言えば、今後、年金制度自体が、今と同様の状態で維持されるのか、あるいは改悪または改善されるのかも分かりません。
それらの様々な要因を加味して、自分にとって繰り上げするのが最善なのか、繰り下げすることが最善なのか、よく考えて選択しましょう。