人事労務部

雇用契約書を交わさなくても違法にならないか?

雇用契約書を交わしている会社は多いとは思いますが、中小零細企業では、実は交わしていない会社も相当数あります。実際、私共はいろいろな会社の労務管理の実態を見ることがありますが、契約書がない会社は想像以上に多いです。では、雇用契約書を交わさなくても問題ないのでしょうか?
このあたりを解説したいと思います。

  

雇用契約書が無くとも違法必ずしも違法ではないが

労働者が入社した際に、通常、雇用契約書を交わしますが、平成19年に誕生した労働契約法にさえ
「 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。 」
としています。つまり「できる限り」としているので、絶対的な義務ではありません。正直、なぜ義務化しなかったのか不思議ではありますが現状こうなっているので雇用契約書を交わしていなくても違法ではありません。

では、会社側は何もしなくても良いうかというとそういうわけでもありません。労働基準法15条で次のように規定されています。
「 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」
非常に分かりにくい条文ですので、簡単に言い換えると「基本的な労働条件については、書面で労働者に通知しなければならない」ということです(現在は、メール等で通知してもOKです)。
基本的な労働条件とは、以下のものです。
・労働契約の期間に関する事項
・働く場所と業務の内容について
・始業終業時刻、残業の有無、休日・休暇について、就業時転換について
・賃金の決定、計算、支払方法、賃金の締切及び支払いの時期、昇給に関する事項
・退職に関する事項
上記はすべての会社が必ず書面に記載しなければならない事項です。以下は、その会社にこの制度があれば必ず記載しなければならない事項です。
・退職金に関する事項(退職金制度があれば)
・賞与等に関する事項(賞与等があれば)
・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
・安全及び衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰及び制裁に関する事項
・休職に関する事項
この書面による通知書を「労働条件通知書」と言いますが、基本的に雇用契約書に書く内容と労働条件通知書に書く内容はそれほど違いが無いので、労働条件通知書が作成できる(している)会社であれば、雇用契約書も作成しているわけで問題はあまり起きません(雇用契約書に明示しなければならない条項が全て記載されていれば、雇用契約書だけで構いません)。
しかし、会社の中には、雇用契約書も交わさず、労働条件通知書も渡していないという会社が存在します。それが意外に多いのです。これらが交付されていない場合、会社側と労働者側で労働条件に食い違いが生じた場合に、トラブルになりやすくなります。これは、明確な労働基準法違反になりますので、労働条件通知書も雇用契約書ももらっていない場合で、現状の労働条件に不満がある場合は、労働基準監督署に相談してみてはいかがでしょうか。
ちなみに労働条件通知書を労働者に明示しなかった場合、会社は「30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。

まとめ

まとめると、雇用契約書の作成は義務ではないが、労働条件の通知は必ず行わなければならないということです。ただ、そもそも、雇用契約書を交わさないあるいは労働条件通知書を渡したくない会社というのは、労働条件を明確にさせたくない理由があるか、作成が単に面倒くさい等の理由があるためだと思われます。そういった会社はいわゆるブラック企業である可能性は高いです。
他に違法な点や不満な点が多ければ転職を考えても良いかもしれません。

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