人事労務部

感染防止での休業に休業手当は必要か?

さて、これを書いている現在(2020.2.26)新型コロナウイルスによる感染が日本国内でも広がり、終息の兆しも見えていません。今後、さらなる感染拡大が予想されます。
自社の従業員に感染者や感染が疑われる従業員が出た場合に、感染防止のため、会社として休業することを選択した場合、労働基準法に定める休業手当の支払いは必要になるのでしょうか?
厚生労働省のQ&Aを確認しつつ、解説をしたいと思います。

  

まずは、労働基準法の休業手当を確認

休業手当は、労働基準法第26条に規定されています。まずは条文を見てみましょう。
(休業手当)
第26条
 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

 つまり、会社側の都合により、労働者を休ませる必要が生じた場合は、会社はその休ませた労働者に対し、その労働者の平均賃金の6割以上の「休業手当」を支払わなければならないということです。
 一般的に、「使用者の責めに帰すべき事由」とは、例えば、工場などで在庫がさばけず生産調整の必要がでたために休業する場合、原材料などの価格高騰などを理由に休業する場合や不祥事等により監督官庁からの勧告による操業停止も「使用者の責めに帰すべき事由」に該当します。
 では、逆に使用者の責めに帰すべき事由に該当しない、つまり、休業手当の支払いの必要がない休業とはどういう場合でしょうか?
 最たるものは、天災事変による休業です。地震や台風などで休業を余儀なくされた場合は、休業手当の支払いは必要ありません。
 ただ、何が使用者の責めに帰すべき事由に該当するかは、一概に決めることはできません。総合的にいろんな要素を勘案し決定しますが、余程のことでない限り、休業させた場合には、休業手当の支払いが必要となると考えておいたほうが良いでしょう。

新型コロナウイルスに係る理由で休業させる場合は、どうなるか?

 さて、今回の問題となる新型コロナウイルスに関係した休業が発生した場合に、休業手当の支払いは必要なのかどうなのかですが、結論を言うと残念ながらケースバイケースとなってしまいます。コロナウイルスを理由にすれば、すべての休業が休業手当の支払いが必要ないと考えるのは非常に危険です。
 厚生労働省のQ&Aでも解説していますが、休業手当の支払いの必要が無い休業とするためには、不可抗力による休業である必要があり、不可抗力による休業とするためには以下の2つを満たしている必要があります。
1.その原因が外部による発生したものであること
2.会社が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることが出来ない事故であること
この2つをまず満たす必要があります。そのため、ここ数日で在宅勤務を始めた大手企業が数社ありますが、在宅勤務に切り替えられる業務については切り替えを十分検討しないまま休業させても会社都合の休業とみなされる可能性は高くなります。
次に厚生労働省のQ&Aをもう少し詳しく見てみます。

感染した方を休業させる場合

 すでに新型コロナウイルスに感染し、都道府県知事が就業制限をしている場合は、当然に「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には該当しませんので、この方に休業手当を支払う必要はありません。

感染が疑われる方を休業させる場合

 では、次に確実に感染していると判断されたわけではないが、熱やだるさ、息苦しさなど症状が出ている場合はどうなるのでしょうか?
 この方たちはその時点では「帰国者・接触者相談センター」へ相談することになりますが、おそらくこの段階では労働者の方が自主的に会社を休む等の対応を取っていることと思いますので、この場合は通常の病欠扱いなので、会社の就業規則通りに対応することになります。
 「帰国者・接触者相談センター」への結果を踏まえても、就労が可能となった方について、就業させるのか休業させるのかは、会社側の判断になりますので、休業の選択を会社がした場合には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当する可能性が高く、基本的に休業手当の支払いが必要となります。

 厚生労働省は現時点では、上記のような見解を示しています。そのため、例えば、従業員への感染を防止する目的で、仮に、健康な人も含めて全社一斉休業を行った場合には、原則として「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、就労可能な方に対しては、休業手当の支払いが必要となることになります。

取引先が新型コロナウイルスの影響を受けている場合

 今回の新型コロナウイルスは、中国が最も感染者が多いので、取引先の中国企業が完全に休業あるいは倒産しているケースもあると思います。その取引先中国企業等から輸入ができないため、やむを得ず休業する場合はどうでしょうか?
 この場合は、一概には言えず、その取引先企業への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、会社としての休業回避のための具体的な努力等を総合的に勘案し、判断すると厚生労働省は示しています。

まとめ

 現在、新型コロナウイルスは感染を拡大させている状況にあります。このまま状況がどんどん悪化していけば、経営者の方は、いろいろな決断をせざるを得ない状況がでてくるかと思います。
 是非、事前に十分、労使間での話し合いをして頂き、監督官庁とも相談しながら、休業やあるいは事業縮小などの決断をして頂きたいと思います。
 厚生労働省も現在は、上記のような見解ですが、今後、状況が悪化すればまた違った見解を示す可能性も考えられます。
 様々な情報に注目し、この危機を乗り切って頂ければと願います。

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