副業(ダブルワーク)を推進する企業が増える中、実務で意外と見落とされがちなのが「二以上事業所勤務届」の手続きです。
「本業で社会保険に入っているから、副業先では手続き不要」と思い込んでいる従業員(あるいは会社)も少なくありませんが、要件を満たせば両方の会社で社会保険に加入し、保険料も合算・按分する必要があります。
今回は、社労士として知っておきたい「二以上事業所勤務届」の基本と、2026年現在の最新動向を整理して解説します。
そもそも「二以上事業所勤務」とは?
従業員が複数の会社で働き、それぞれの会社で社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件を満たした場合、その従業員は「二以上事業所勤務者」となります。
この場合、従業員はどちらか一方の会社を「メイン(選択事業所)」として選び、年金事務所へ届け出なければなりません。
社会保険の加入要件(2026年4月現在)
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金が月額8.8万円以上(※2026年10月にはこの賃金要件が撤廃予定)
- 2ヶ月を超える雇用見込みがある
- 学生ではない
- 従業員数51人以上の企業(※順次拡大中)
「二以上事業所勤務届」の手続きの流れ
要件を満たした場合、以下のステップで手続きを進めます。
- 従業員による「選択」: どちらの事業所をメインにするか決めます(通常は給与が高い方や、事務手続きを行う拠点を選びます)。
- 届出書の提出: 従業員本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を作成し、「選択した事業所」を管轄する年金事務所へ提出します。
- 決定通知の送付: 年金事務所が両方の会社の報酬を合算し、保険料を決定。それぞれの会社へ「保険料額の通知」が届きます。
ポイント: 提出期限は「事実発生から10日以内」です。手続きが遅れると、過去に遡って保険料が徴収され、給与計算の修正が非常に煩雑になります。
従業員本人が提出することにはなっていますが、会社が代わって出してあげるケースが多いです。
保険料はどうやって計算される?
保険料は「本業+副業」の報酬を合算した金額(標準報酬月額)をもとに算出され、それをそれぞれの報酬比率で按分して各社が納付します。
- 例: A社(月給20万円)、B社(月給10万円)の場合
- 合計30万円の標準報酬月額に基づき保険料を算出。
- A社は全体の2/3、B社は全体の1/3の保険料を負担・天引き。
会社側からすると、「他社の給与額によって、自社で負担する保険料が変わる」という点が実務上の大きな特徴です。
2026年、特に注意すべき最新トピック
現在、社会保険の適用拡大が加速しています。以下の2点は特に注意が必要です。
① 賃金要件(106万円の壁)の撤廃(2026年10月予定)
これまで「月額8.8万円」未満であれば副業先での加入は不要でしたが、2026年10月からはこの要件が撤廃される見込みです。これにより、「少しの副業」でも社会保険のW加入が必要になるケースが激増すると予想されます。
② 事務負担とコンプライアンス
副業を隠している従業員がいた場合、年金事務所からの通知で副業が発覚することがあります。また、届出を怠ると指導の対象となるため、就業規則での副業申告ルールの徹底が不可欠です。
まとめ:会社と従業員のコミュニケーションが鍵
「二以上事業所勤務届」の手続きは、従業員本人が行うのが原則ですが、実務上は会社側がサポートしなければスムーズに進みません。
- 副業を許可する際は、社会保険の加入条件を説明する
- 他社での加入状況をヒアリングする運用を作る
こうした事前の備えが、後々のトラブル(遡及徴収や給与計算ミス)を防ぐことにつながります。
社会保険制度は複雑化しています。副業解禁に伴う規定整備や実務手続きに不安がある場合は、ぜひ専門家である社会保険労務士にご相談ください。
