今回も、ご相談いただいた内容から解説していきたいと思います。
ご相談いただいた内容は以下の通り、
「従業員が帰宅途中に転倒してけがをして、病院で治療を受けたが、健康保険を使ったようだ。通勤途中のケガなので通勤労災になるのではないか?労災に切り替えられるとして、すでに健康保険で支払いを済ましてしまっている場合は、どのような対応をすればよいのか?」
というご相談でした。
仕事中の事故であれば、すぐに労災が適用されるとほとんどの方がわかるのですが、仕事が終わってからの通勤途中だと労災が使えるとは思わずに、通常の健康保険で治療していしまうケースは少なくありません。病院側で労災だと気づくケースももちろんありますが、そのまま健康保険で処理されてしまうケースも多いです。
実際、こういいた事例が起こると、少し知識が無いとなかなか対処に困ると思いますので解説したいと思います。
まず、今回のケースが通勤労災に該当するか?
今回のケースでは、勤務場所から自宅への通常の通勤経路内で徒歩で帰宅中に道路で転倒してけがをしたものだったため通勤災害に該当し、労災が適用されます。
原則として、通常の通勤経路から逸脱又は中断してしまった場合は、通勤災害に該当しなくなりますが、日常生活上必要な行為を最小限度の範囲で行う場合は、その逸脱又は中断している間はの事故は通勤災害に該当しませんが、再び通勤経路に戻ってからは、通勤災害の対象となります。
日常生活上必要な行為とは、例えば、途中で公衆便所に入った場合、日常生活で必要な買い物をするためにコンビニやスーパーなどに寄った場合、選挙に立ち寄った場合、病院等で治療を受けた場合などが考えられます。もちろんこれら以外でも認められるーケースがありますので、それらは、ケースバイケースで考えることになります。
どちらにしても、今回のケースでは、どこにも立ち寄っていなかったですし、いつもの通勤経路内でケガでしたので、完全に通勤災害の対象となります。
誤って健康保険を使ってしまった場合、どのように労災への切り替えを行うか?
では、実際に労災への切り替え手続きは、どのように行うかのかを解説します。
1.まずは、現在、治療を受けている病院(すでに治療が終わっている場合は、その治療を受けた病院)へ、通勤災害なのに誤って、健康保険を使ってしまった旨を報告します。
治療を受けてから(健康保険証を使ってから)、間もない場合は、まだ、病院が協会けんぽや健康保険組合等へ保険請求していない可能性が高いので(月が変わっているといると請求している可能性が高い)、その場合は、その場で労災へ切り替えてもらえる場合があります。この場合、病院へ労災の申請書「療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用(様式第16号の3)」に必要事項を記載し提出します(病院側で用紙を用意してくれる場合もあります)。
これだけで、切り替えは完了するので、今後の治療費はかかりませんし、これまで健康保険を使ったときに支払った3割分の治療費も返還してもらえます。
問題になるのは、病院がすでに協会けんぽ等へ保険請求してしまっている場合です。この場合は、協会けんぽ等が負担している7割分の費用を、本人が協会けんぽ等へ返却しなければなりません(つまり7割分を本人が一旦、負担することになります。すでに病院へは3割支払っているので、この段階で治療費の10割を一旦自身で負担することになります)。
協会けんぽ等へ支払いを行うと領収書が発行されます。
2.本人又は勤務している会社の方で労災の申請用紙「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5(1)」を準備し、それを治療を受けている病院に提出し、病院の証明欄に証明をもらいます。
3.上記「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5(1)」と最初に病院で治療費を払った時の3割分の領収書、協会けんぽ等へ支払ったときの7割分の領収書をそろえて、勤務先住所を管轄する労働基準監督署へ提出します。審査後に、10割分の治療費が、本人の口座へ振り込まれます。
ちなみに、治療に当たり、薬が出ている場合で、その薬代についても健康保険を使ってしまった場合は、同じような手順を薬代についても行うことになります。その場合、上記「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5(1)」は「療養給付たる療養の費用請求書(様式16号の5(2)」になります。
以上のような流れになります。
まとめ
労災の事案で、健康保険を使ってしまうと、上記のようなかなり面倒な手続きを行なう必要があります。
ですから、通勤の途中でケガをした場合は、最初に病院にかかるさいに、病院へ「通勤の途中でケガをした」とはっきり伝えて、労災が使えるかどうかを確認してください(病院によってはそもそも労災が使えない場合もあるので)。
健康保険を使ってしまうと、10割を一旦負担したうえで、上記の手続きを取らなければならないので、避けたいところです。誤って健康保険を使ったことが判明したら、可能な限り早く病院へ伝えることが重要です。