年俸制の残業代計算間違ってませんか?
今回は、企業の経営者の方から、「年俸制を導入したい」というご相談を受けましたので、年俸制のしくみや注意点をご紹介したいと思います。年俸制は、もうずいぶん前から導入する企業がすこしずつ増えてきていますが、最近では、中小企業でも導入する企業が増えてきています。そこで、素朴な疑問として、例えば、年俸制にした場合は、時間外手当(残業代)は出さないといけないのか?出さないといけない場合、どのように計算するのが正しいのかなど年俸制と時間が手当の関係についても解説したいと思います。
年棒制の仕組みと特徴
年俸制と聞いて真っ先に思いつくのは、プロ野球選手ではないでしょうか?毎年、シーズンオフになると年俸の契約更改のニュースが流れますね。でも、プロ野球選手は労働基準法上及び労働契約法上は「労働者」ではありませんので、今回ご説明する年俸制とは、すこし性質が異なります。
とはいえ、年俸制とは基本的に、その年1年間の給与額を事前に決定する給与形態ですので、その意味ではプロ野球選手と同じになります。ただ、先ほども書いたように、労働基準法上の労働者に対して適用される年俸制の場合は、当然、労働基準法の制約をうけることになります。
その一つに労働基準法第24条があります。労働基準法第24条には、「賃金は、毎月一回上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められているため、例えば年俸600万円と契約しても、その12分の1の50万円を毎月支払うなどしなければなりません。1度にまとめて支払うことは許されないのです。
このように見ると月給制と変わらないではないかと思われるかもしれませんが、年俸制と月給制の大きな違いは、賃金額の決定方法です。年俸制は年単位で賃金額を決定するという特徴以外に、その額が例えば前年の本人の業績評価などを前提に会社との話し合いで決定される点です。通常の月給制の場合は、基本的に基本給等が下がることはありませんが、年俸制の場合は、前年の業績・成績が悪ければもちろん下がる可能性もあります。つまり、成果主義を前提とした賃金決定方法となります。
年棒制の場合、賞与はどうなるか?
先ほども書いたように年俸制は、年単位で給与額を決定するので、本来、賞与(ボーナス)という考え方は存在しません。賞与等も含めて年額を決定することになります。ただ、給与の支払い方法として、先にも書きましたが、労働基準法上は毎月支給しなければなりませんので、例えば年額600万円に年俸額が決定した場合に、単純にこれを12で割って、50万円ずつを毎月支払う方法と、これを14に近い数字で割って、例えば毎月は42万円ずつ支払い、他の社員の賞与の時期に48万円を2回支払う会社もあります。
結局、年額自体は決まっているので、それをどのように支払うかは、会社と労働者本人が話し合いで決定することになります。
年棒制の場合、時間外手当(残業代)はどうなるか?
年俸制を導入すれば、会社側は時間外手当(残業代)を支払わなくても良いと考えている方も多いようですが、例えば、年俸制の対象者が労働基準法第41条第2項に該当するいわゆる「管理監督者」に該当する場合(この場合でも深夜割増は必要)や労働基準法38条の3、4に定める裁量労働制の基で働く場合、労働基準法38条の2に定める事業場外労働のみなし労働時間制で働く場合を除いて、時間外手当(割増賃金)は通常通り支払う必要があります。つまりは、この点については、年俸制であっても月給制であっても変わりは無いことになります。
ただ、時間外手当(残業手当)の計算方法については少し注意が必要です。年俸額を単純に12で割って月額を決めてそれを毎月支払っている場合は、通常通りの時間外手当の計算を行えば問題がないのですが、年俸額の一部を賞与として支払っている場合は注意が必要です。
この点については平成12年に労働省から通達が出ていますので、少し詳しくみてみます。
ある会社で、年俸制の対象になっている労働者の給与の支払い方法は就業規則で以下のように定められていました。
(年俸制)
第○条 給与は年俸制により定める。
(給与の支払い方法)
第○条 決定された年俸の17分の1を、月給給与として支給する。
2 決定された年俸の17分の5を2分して、6月と12月に賞与として支給する。
この会社は、時間外手当(残業手当)の計算の際には、あくまで月給給与として支払う分(年俸額の17分の1)を計算の基礎として計算を行ってきたのですが、この考え方について間違いがないかの問いについて、当時の労働省は以下のように回答しています。
「割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金の一つである「賞与」とは支給額があらかじめ確定されていないものを言い、支給額が確定しているものは「賞与」とみなされないとしているので、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合の賞与部分は上記「賞与」に該当しない。したがって賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。よって、事案の場合、決定された年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1ヶ月平均所定労働時間)で除した金額を基礎とした割増賃金の支払いを要し、就業規則で定めた計算方法による支払額では不足するときは、労働基準法第37条違反として取り扱うこととする」
としています。つまり、月々に支払う給与額にかかわらず、割増賃金(時間外手当)を計算する際の基礎とするのは、あくまで年俸額の12分の1とする必要があるということになります。給与計算担当者はこの点に注意する必要がありますし、実際に、年俸制で働いている方は、自分の割増賃金が正確に計算されているか確認してみてはいかがでしょうか?
ただ、会社によっては、そもそも一定の時間外手当(残業代)を年俸額に含めて労働者と契約するところもあります。例えば、年俸額は600万円ですが、そのうち500万円は基本給、残り100万円は時間外手当(残業代)として契約する場合です。この場合、500万円を12で割った額を時間外手当の基礎として計算し、実際の残業時間から計算した額が100万円を超える場合は、超えた分については、会社は追加で支払わなければなりません。もちろん、仮に実際の計算額は100万円を下回っても、労働者は返金する必要はありません。
まとめ
年棒制は、企業にとっても労働者にとっても、一長一短がある制度だとは思いますが、間違った運用をされているケースもすくなくありません。
後々にトラブルにならないよう、企業側も労働者側も契約する際に、よく話し合いを行って、詳細を決定するようにしましょう。