今月(H29年10月)から最低賃金が引き上げ、最低賃金の疑問
今月(平成29年10月)から最低賃金が引き上げられました。昨年の平均上げ幅は25円で過去最高でしたが、今年の上げ幅も25円と昨年に続き過去最高の上げ幅になりました。政府は、最終的に最低賃金を1,000円にすることを目指しており、毎年3%の上げ幅を目指しています。このまま3%づつ上がっていけば2023年には1,000円に達する見込みです。
自分の時給が最低賃金を下回っていないかは、必ず確認してください。地方の中小企業や個人事業などでは、いまだに最低賃金を下回る時給で働かせているところも少なくありません。
そこで、今回は、あらためて最低賃金の仕組みといろいろな疑問について解説していきたいと思います。
最低賃金とは?
最低賃金とは、最低賃金法に基づき国が労働者に支払う給与の最低額を定め、労働者を使用する側(企業など)は、その最低額以上の給与を支払わなければならないとする制度です。
法律で定められた最低限度の給与になりますので、仮に、労働者が同意、納得した上で最低賃金より安い給与で契約したとしても、その給与額は無効になり、最低賃金で契約したものとみなされます。
さらに、最低賃金法に違反した会社には罰則もあります。
最低賃金には2種類ある!
最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金では、都道府県別にそれぞれ最低賃金が決められています。以下の特定最低賃金の対象となっている産業以外のすべて会社、事業所で働く方に対して適用されることになります(以下の特定最低賃金の対象になっている産業であっても、この地域別最低賃金以下の場合は、こちらの地域別最低賃金が適用されます)。よって、特定産業に該当しなければ、まずは、この金額をチェックすることが重要です。
現在(平成29年10月)の地域別最低賃金額
北海道・・・810円 青森県・・・738円 岩手県・・・738円 宮城県・・・772円 秋田県・・・738円 山形県・・・739円 福島県・・・748円
茨城県・・・796円 栃木県・・・800円 群馬県・・・783円 埼玉県・・・871円 千葉県・・・868円 東京都・・・958円 神奈川県・・・956円
富山県・・・795円 石川県・・・781円 福井県・・・778円 新潟県・・・778円 山梨県・・・784円 長野県・・・795円
岐阜県・・・800円 静岡県・・・832円 愛知県・・・871円 三重県・・・820円
滋賀県・・・813円 京都府・・・856円 大阪府・・・909円 兵庫県・・・844円 奈良県・・・786円 和歌山県・・・777円
鳥取県・・・738円 島根県・・・740円 岡山県・・・781円 広島県・・・818円 山口県・・・777円
徳島県・・・740円 香川県・・・766円 愛媛県・・・739円 高知県・・・737円
福岡県・・・789円 佐賀県・・・737円 長崎県・・・737円 熊本県・・・737円 大分県・・・737円 宮崎県・・・737円
鹿児島県・・・737円 沖縄県・・・737円
最も高い最低賃金は、東京都の958円
最も低い最低賃金は、高知県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県の737円
その差額は、221円
特定最低賃金
特定最低賃金は、ある特定の産業についてのみ設定されている最低賃金です。基本的には、都道府県ごとに、産業の内容が異なります。よって、ある県では特定産業に設定されていても、B県では、その産業について特定産業に設定されていない場合もあります。
また、基本的に上記の地域別最低賃金よりも高い最低賃金が設定されています。
現在(平成29年)233件の特定最低賃金が定められています。この233件のうち、232件は先ほども書いたように各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件のみ全国単位で決められています。
最低賃金は、全ての労働者に適用される?
地域別最低賃金は、業種や職種に関係なく、その都道府県内で働くすべての労働者に適用されます。もちろん、その雇用形態も関係ありません。正社員であってもパートタイマーであっても、アルバイトであっても、日雇労働者であってもすでての労働者に適用されます。
一方、特定最低賃金は、その域内の特定の産業の基幹的労働者に対してのみ適用されます。そのため18歳未満や65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他一部の軽易な作業に従事する方などには適用されません。
原則としては上記のとおりですが、一部例外があります。
それは、障害等により一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を適用させてしまうと働ける場所と機会を狭めるおそれがあるため、次の労働者については、使用する会社側が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
○精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
○試の使用期間中の方
○基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
○軽易な業務に従事する方
○断続的労働に従事する方
あくまで、上記の方たちについては、自動的に最低賃金が除外されるのでは無く、必ず労働局長の許可が必要ということになります。その許可が出れば、例外的に認められるということです。
派遣労働者の場合、派遣元住所の最低賃金?それとも派遣先住所の最低賃金?
例えば、神奈川県にある派遣会社に登録している派遣労働者が、東京都にある会社(派遣先)に派遣され働いた場合、この派遣労働者には、神奈川県の最低賃金が適用されるのでしょうか?それとも東京都の最低賃金が適用されるのでしょうか?
答えは、東京都の最低賃金が適用されます。派遣労働者の場合、派遣元の会社の最低賃金ではなく、すべて派遣先の住所の最低賃金が適用されます。そのため色々な都道府県に派遣している派遣会社は、それぞれの派遣先の最低賃金を把握しておく必要があります。
最低賃金の対象となる賃金とは?
最低賃金の対象となる賃金と対象にはならない賃金が存在します。基本的には、毎月支払われる基本部分の賃金が対象となります。
よって、次のようなものは、最低賃金の対象から除かれます。
○結婚祝い金など臨時に支払われるもの
○賞与・ボーナス
○時間外手当・割増賃金・残業代・休日出勤手当・深夜手当
○通勤手当、家族手当、皆勤手当など
つまり、基本給やその他役職手当などほぼ毎月決まって支給される手当などのみで最低賃金を下回らないようにする必要があることになります。
給与体系別の最低賃金の算出方法
時間給の場合は、最低賃金額以上がどうかの判断はすぐわかりますが、月給制や歩合給制の場合、自分の給与が最低賃金以上がどうかについては以下の方法で判断します。
○日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間
上記の金額が最低賃金を上回っているかどうかで判断します。
○月給制の場合
月給÷1ヶ月平均所定労働時間
上記の金額が最低賃金を上回っているかどうかで判断します。
○歩合給の場合
出来高制や歩合給制の場合は、それらの給与の総額を、当該給与計算期間に出来高給制や歩合給制によって労働した総労働時間数で割って時間当たりの金額に換算し、最低賃金額と比較します。
少し分かりにくいので、具体例を上げてみます。歩合給制で働くということでタクシーの運転手さんを例に挙げます。
Aさんは愛知県のタクシー会社B社に運転手として働いています。
B社の1ヶ月平均の所定労働時間は170時間です。
ある月のAさんの給与及び勤務状況は以下の通り。
総労働時間は210時間。所定労働時間は170時間なので40時間は残業ということになります。
40時間の残業のうち20時間は深夜勤務。
給与は、
歩合給155,000円、時間外割増賃金7,381円、深夜割増賃金3,691円で合計166,072円でした。
最低賃金の対象になるのは、このうち歩合給の155,000円のみになります。
Aさんのこの月の総労働時間は210時間でしたので、
155,000円÷210時間=738円
愛知県の最低賃金は、871円なので、最低賃金以下となり違反していることになります。
このように完全歩合給の場合、本人も会社も気付かないまま、最低賃金を下回ってしまうケースが結構ありますので、注意が必要です。
まとめ
最低賃金は、毎年、この時期に改定されますので、この時期に必ず確認するようにしましょう。また、上記で説明した完全歩合給のケースのように、誰も気付かないまま最低賃金を下回っている場合も少なくありません。正確な計算の基で、最低賃金に違反していないかどうか、チェックをしておきましょう。
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