有給休暇を取得すると給料が減る?
有給休暇を取得すると給与が減る場合があると聞くと「それは違法じゃない?」と考える方が多いと思います。もちろん、違法になる場合もあるのですが、合法にもかかわらず、給与が減る場合が無いわけでもありません。
今回は、有給休暇取得時に支払われる賃金について解説したいと思います。
有給取得者に対する不利益な取り扱いは禁止
まず、大前提として、有給休暇を取得した労働者に対し、何かしらの不利益を会社が与えることは禁止されいます。例えば、有給休暇の取得日数が多いからという理由で、人事考課に影響を与えたり、賞与を低くしたりする行為は当然に禁止されます。ただ、現実問題としては、人事考課の内容が開示されない会社も多いので、実際には、有給休暇を取得したことが人事考課に影響しているのに、表向きには、勤務態度、勤務成績が良くなかったからという理由で昇給額等に影響が出ている会社は存在します。よって、そこまでの追及はなかなかできないのが現状です。ただ、今回、解説するのは、そういった不利益によって給与が減るというお話ではありません。
有給休暇を取得した日の賃金はどう決められるのか?
有給休暇を取得した日の賃金をどのようにすべきかについては、労働基準法第39条第9項に記載があります。
条文をそのまま読んでも非常に分かりにくいので、簡単に説明すると、
会社は、労働者が有給休暇を取得した日について、就業規則等で以下の3つの方法のいずれかを定め、それに従い賃金の支払いを行う必要があります。
①その労働者が所定労働時間勤務した場合に支払われる通常の賃金
②平均賃金
③健康保険の標準報酬月額の30分の1に相当する金額(この方法を採る場合、労使協定が必要)
上記のうち、ほとんどの会社が①を選択していますが、ごくまれに②や③を選択している会社もあります。
上記のいずれかを就業規則で定めることになってるので、就業規則で定めた方法以外で計算することは許されません。
例えば、Aさんは、①の方法、Bさんは②の方法というのは許されないということです。ありがちなパターンとしては、正社員は①の方法だが、パートやアルバイトは②の方法を採用するという場合です。この場合も正社員のみに適用される就業規則には①を規定し、パート用の就業規則には②を規定しておく必要があります。
①の「その労働者が所定労働時間勤務した場合に支払われる通常の賃金」というのは、簡単に言うと、通常通りに出勤した場合に支払われる賃金と同額ということになるので、こちらを採用している会社であれば、給与が減額することはありません。先ほども書きましたがこの①を採用している会社がほとんどなので、大体の方は気にする必要ありません。しかし、②又は③を採用している会社は減額される可能性があります。③の健康保険の標準報酬月額の30分の1に相当する額を採用するためには、労働者代表との労使協定の締結が必要なので、③を選択する会社はほとんどありません。よって①に次いで多いのは②の平均賃金ということになります。
なぜ、平均賃金で計算すると給与が減額する可能性があるかについては、平均賃金がどういったものなのかを知れば分かります。
平均賃金の計算方法は以下の通りになります。
過去3ヶ月間の賃金総額÷過去3ヶ月間の総日数
ポイントは賃金を労働日数で割るのではなく、総日数(暦日数)で割る点です。
実例で解説したいと思います。時間給のパートさんの場合で計算します(平均賃金を使用するケースは時間給の方が多いため)。
8月に取得した有給休暇分の平均賃金の計算をします。
5月の給与が100,000円、6月の給与が105、000円、7月の給与が100,000円とするとこの3ヶ月間の給与の総額は、305,000円になります。また、5月から7月の総日数は、5月は31日、6月は30日、7月は31日なので、92日になります。これらから平均賃金を計算すると305,000円÷92日=3,315円となります。
このパートさんの勤務状況は、時給1,000円、原則として1日5時間で月21日の勤務(平日勤務)とします。最初に説明した①の「 その労働者が所定労度時間勤務した場合に支払われる通常の賃金 」で計算する会社であれば、通常1日は5時間勤務なので有給休暇を取得した日は5,000円が支給されることになります。
しかし、平均賃金で支給する会社の場合は、さきほど上記で計算した「3,315円」の支給になってしまいます。約1,700円も減額されることになります。しかし、きちんと就業規則で平均賃金を使用するとの記載があれば、違法ではありません。
まとめ
実際、私もパートの労働者の方から有給休暇の賃金が安すぎるのでは?と相談を受けたことがありますが、よくよく調べてみると平均賃金を使用している会社で、違法性はありませんでした。
もちろん、就業規則で規定していなければ違法になる可能性はありますし、ごくまれにですが、休業手当の勘違いしているのか、給料の6割(上記のパートさんの例であれば3000円)を支給している会社や、平均賃金のさらに6割という会社もありました。
月給制の場合は問題になるケースは少ないですが、日給制や時給制の場合は、不当に減額されているケースもありますので注意してください。