今年(2022年)の労働保険年度更新は注意が必要です!
今、この記事を書いているのは、2022年6月1日です。会社で社会保険等の手続きを行なっている方は、そろそろ労働保険の年度更新手続きの準備に入られていることかと思います。申告書ももう届いているのではなないでしょうか?
ご存じの方も多いかもしれませんが、今年の年度更新と来年の年度更新はいつもと少し違います。私は20年近く社会保険労務士をやっておりますが、今回のような年度更新は初めてです。
そこまで、難しいわけではありませんが、注意ポイントを簡単に説明したいと思います。
簡単におさらい。年度更新手続きとは何か?
労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新手続きとは、簡単に言うと、税金で言う確定申告のようなもの考えるとイメージしやすいかもしれません。
何を申告するかというと、4月から翌年3月までの「年度」間に支払った労働者への賃金の額です。
ただ、労働者の方の中には、雇用保険に加入している人と加入していない人がいるので、それらは分けて計算する必要があります。
例えば、正社員10名、パート5名の会社で、パートは雇用保険に加入してないとします。そうすると労災保険の対象者は全員の15名、雇用保険の対象者は正社員のみの10名なので、それぞれ支払った賃金額に、労災保険料率と雇用保険料率を乗じて保険料額を計算し、両者を合算して「確定保険料」を算出します。
労働保険の年度更新がややこしいのは、この確定保険料を単純に納めるのではなく、前年に収めた概算保険料と確定保険料の差額と次の概算保険料を納める点です。
例えば2021年の年度更新の時には、2021年度分の概算保険料を納めています。例えばこれが20万円だったと仮定します。そして、今年の年度更新で実際の2021年度の賃金額が確定するとともに確定保険料も算出されます。仮に、この確定保険料額が22万円だった場合は、すでに納めている概算保険料の20万円と比べて、2万円不足しているので、この分は追加で納める必要があります。
さらに2022年度の概算保険料も納める必要がありますが、一般的にはこの概算保険料の額は2021年度の確定保険料の額と同額になるので、22万円の概算保険料となり、先程の差額2万円の合計24万円の労働保険料を納めるという仕組みになっています(これが複雑になる原因です。国は徴収漏れを防ぐために、概算で前払いの保険料を徴収できるようにしたのだと思います)。
今年の年度更新は何が違うか?
では、今年の年度更新手続きは、今までと何が異なるのでしょうか?
それは「雇用保険料率の変更」です。
と言っても、これまでも幾度となく、雇用保険料率は変更になってきました。でも、今年は、この雇用保険料率が、2段階で変更となります。こういった1年度間に2回も保険料が上がることは過去にはありませんでした。
では、今年2022年度はどのように雇用保険料率が上がるかですが、実はすでに1回目の引き上げが2022年4月に行われています。
ただ、この4月の保険料引き上げは、雇用保険料率の内、事業主負担分のみ引き上げになっているため、給与計算等には影響がありません(つまり労働者の方の手取り額には影響がありません)。
具体的には雇用保険料率で0.5/1000の引き上げが実施されています。
4月の引き上げはわずかですが、次の引き上げは2022年10月に実施されます。
その引き上げですが、被保険者負担分(労働者負担分)で2/1000の引き上げ、事業主負担分でも2/1000の引き上げとなります(事業主負担分は4月の引き上げと合わせると2.5/1000)。
皆さんが興味があるのは、自身の給与からどれくらい負担が増えるかだと思いますが、例えば給与額が30万円だったとするとこれまでの雇用保険料の給与からの控除額は900円でしたが、10月からは1500円となるので、結構な引き上げ額となります(金額は一般の事業の場合)。
話を年度更新に戻します。
上記のように2段階で引き上げが行われるため、年度更新の際の「概算保険料」の計算に注意が必要となります。
例えば、2021年度の雇用保険対象者の給与総額が3000万円だったと仮定します。これまでであれば、単純に、この3000万円に2022年度の雇用保険料率を乗じれば良いだけでしたが、今回に限り、保険料が2段階で変更になるため、この3000万円を半分に分けて、それぞれ、4月の保険料率と10月の保険料率を乗じて計算し、それを合算して2022年度の雇用保険の概算保険料を算出します。
先程の例で具体的に計算します。
雇用保険対象者の2021年度の賃金総額は3000万円で、大きな変動はないものとします。事業は、一般の事業とします。
この場合、まず3000万円を半分の1500万円ずつに分けます。この1500万円に4月からの雇用保険料率9.5/1000を乗じます。すると142,500円になります。
次に10月からの雇用保険料率13.5/1000を同じく1500万円に乗じて計算すると202,500円になります。これらを合算すると142,500円+202,500円=345,000円となり、
これが2022年度の雇用保険の概算保険料となります(実際は、これに労災保険の概算保険料を加えて申告します)。
まとめ
上記のように、今年度の労働保険の年度更新は例年と違う点がありますので、注意してください。ただ、冷静に計算すれば、何も難しいことはありません。
それよりも、計算してみると、想像以上に保険料が上がっていることに気づくと思います。人数が多い会社であれば、かなりの負担増になりますので、資金繰り等に注意してください。
また、労働者の方の給与からの控除額が10月から増えます。一人あたりであれば数百円の負担増にはなりますが、なかなか給与額が上がらない中での上昇なので、厳しいと感じる方も出てくるかもしれません。
給与計算担当者の方は、きちんと説明ができるように準備されたほうが良いでしょう。