65歳以降の雇用保険加入要件が緩和
今回は、2022年1月に改正された雇用保険法の内容について解説します。
2022年は様々な法改正がありますので、少しづつ解説していきたいと思います。
今回、解説するのは、雇用保険法についてです。今回の解説する改正は、65歳以上の方の雇用保険への加入についてです。
別名で「雇用保険マルチジョブホルダー制度」と言われるものが新設されたというものです。
別名を決めるのは良いのですが、毎度毎度、小難しい名称を付けるのを何とかしてほしいと個人的には思っています。わざわざカタカナ英語を使わなくても良いと思うのですが・・・それはさておき、このマルチジョブホルダー制度について以下で解説していきます。
雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?
雇用保険マルチジョブホルダー制度を解説する前に、簡単に、雇用保険の加入条件等についておさらいしたいと思います。
雇用保険への加入条件は以下の2つです。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用見込みがあること
上記の条件を満たすような働き方の場合は、年齢を問わず雇用保険に加入しなければなりません。
現在は、年齢要件が無いので、例えば80歳であっても加入する必要があります。
逆に、上記の条件を満たしていない場合は、雇用保険に加入することができません。
例えば週19時間しか働かない場合は、雇用保険に入りたくても入れないということになります。
65歳以上になると、フルタイムで働く方というのは、65歳未満と比べると一気に減ります。
これは、現在の法律が65歳までの継続雇用を会社に義務づけているので、65歳までは比較的フルタイムで働くケースも多いのですが、65歳以降はこの義務がなくなり、パートやアルバイトであれば、雇用するという企業が増えるためです。
そうなると、週20時間未満のアルバイトという形で働く65歳以上の方も多いのですが、それだと雇用保険には加入できません。
また、週20時間未満では、希望する給与額にならないため、アルバイトを掛け持ちする方も中にはおられます。
しかし、例えばA社で週15時間、B社では週17時間働いたとしても、それぞれの週の労働時間が20時間未満なので、この方は雇用保険には加入できません。
これがいままでの制度でした。
しかし、2022年1月からは上記のような掛け持ち勤務の場合は、本人が「ハローワークへ申出」を行うことで、雇用保険の被保険者になることが可能です。
具体的な要件は以下の3つ。
1.複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
2.2つの事業所(ただし1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満にかぎる)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3.2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上あること
上記を満たせば、雇用保険への加入が可能になります。
雇用保険加入の手続きはどうする?
では、雇用保険への加入手続きはどのように行うのでしょうか。
雇用保険マルチジョブボルダー制度では、雇用保険への加入方法は、通常と大きく異なります。
雇用保険の加入手続きは、通常は、その勤務する会社側が行いますが、マルチジョブホルダー制度の場合は、労働者本人が自分で行う必要があります。
しかも、手続きに必要となる雇用されている事実や労働時間を証明する書類は、会社に記載をお願いする必要があります(2社で勤務しているはずなので、双方の会社にお願いすることになります)。
上記会社の証明その他必要書類をそろえて労働者自ら自身の住所を管轄するハローワークで手続きを行ないます。
受理したハローワークは、その内容を確認したうえで加入することになった場合には、ハローワークから勤務するそれぞれの会社に通知されます(会社は雇用保険料の徴収を開始します)。
また、労働者自ら加入手続きを行ないますが、脱退は任意ではできません。あくまで要件を満たせなくなった場合にのみ雇用保険の資格を喪失します。
失業保険は貰える?
マルチジョブフォールダー制度は、そもそも65歳以上の方が対象なので、一般的な基本手当による失業給付の受給はできません。
そのかわり、一定の要件を満たせば、高年齢求職者給付金が支給されます。
金額は、基本手当日額の30日分(被保険者期間1年未満)又は50日分(被保険者期間1年以上)が一括で支給されます。
まとめ
2022年1月から雇用保険マルチジョブフォルダー制度が始まったわけですが、これにより65歳以上の方の雇用保険加入者が増えるかというと、なかなかそういうわけにはいかないと思います。最大のハードルは、原則として、手続きのすべてを労働者自身が行わなければならない点です。通常の雇用保険加入手続きは、会社がすべて行うので、面倒なことはなにもありません。しかし、今回のこの制度では、労働者の負担が大きすぎます。しかも、それぞれの勤務す会社に証明をお願いしなければなりません。もちろん、証明を求められた会社は、それに応じなければならない旨が法令上定められていますが、現実は、そんなにうまくいかないでしょう。面倒で拒否する会社が少なからず出ると思われます。
また、そこまでして労働者自身が雇用保険に入りたいと思うかどうかも疑問が残るところです。
まだ、始まったばかりの制度ですので、今後の動向を見守りたいと思います。