派遣業界において、2020年4月の改正労働者派遣法施行以降、実務の標準となった「労使協定方式(派遣法第30条の4)」。 毎年、局長通達(一般賃金水準)の改定に合わせて協定の更新作業を行っている派遣会社も多いことでしょう。

しかし、毎年の更新手続きが「年中行事のルーティン作業」と化していないでしょうか?

「毎年同じフォーマットで更新しているから大丈夫」 「労働局から特に何も言われていないから問題ない」

このような油断が、後々労働局からの是正勧告や、最悪の場合は労使協定の「無効」判断を引き起こす引き金になります。

本記事では、社労士の視点から、労使協定方式の更新時における具体的な注意点と、実際に現場で多発している「痛恨の失敗事例」を詳しく解説します。

1. 労使協定方式における「更新」の基本ルール

労使協定方式を採用している派遣会社は、毎年厚生労働省から公表される「同種の業務に従事する一般の労働者の平均賃金の水準(一般賃金)」を下回らないよう、定期的に賃金表の見直しと協定の再締結(または変更)を行う必要があります。

更新にあたって押さえておくべき基本ポイントは以下の通りです。

  1. 適用期間の設定 一般賃金の指標は毎年改定されるため、労使協定の有効期間は「1年間(または一般賃金改定に合わせた年度単位)」で設定するのが実務上の原則です。

  2. 労働者代表の選出プロセス 有効期間が切れるごとに、または協定を改定するごとに、適切な手続きで労働者代表を再選出(または継続の確認)する必要があります。

  3. 労働局への届出・周知義務 再締結した労使協定書は、事業報告書等の提出時に添えるほか、派遣スタッフに対して常時周知(Web閲覧や書面配布など)しなければなりません。

2. 現場で多発!労使協定方式更新の「5大失敗事例」

実務で非常に多く見られる、是正勧告やトラブルに直結する失敗パターンをご紹介します。

失敗事例①:労働者代表の選出方法に不備があり「協定が無効」に

【よくある状況】 「以前から代表をやっている人に、そのまま今年もお願いした」「親しいスタッフに『代表になっておいて』と頼んで名前を借りた」「過半数代表者の選出手続きを社内グループウェアでひっそり行い、投票数が全体の数%しかなかった」

【リスクと結末】 労働者代表の選出手続きに民主的な手続き(全スタッフへの周知、投票・挙手・挙名による過半数の信任等)がない場合、労使協定そのものが「無効」となる可能性があります。実際に定期監査等では、この点は必ず確認されます。どのような手続きで選任されたのか、例えば投票であれば、何人が投票し、代表者がどれだけ票を獲得したのか、どのような投票方式で行ったのか、その証拠はあるのかなど、担当官によっては確認されます。

失敗事例②:退職金制度の要件(6%相当)を満たしていない

【よくある状況】 退職給付の適用にあたり、「退職手当制度」「退職金共済」「基本給への上乗せ(退職金前払い)」などの選択肢がありますが、最も手軽な「基本給への上乗せ(一般賃金の6%以上)」を採用しているケースです。

【リスクと結末】 基本給に6%を上乗せして支払う場合、その旨が就業規則(賃金規程)や労働条件通知書に「退職手当相当分として〇〇円(または〇%)」と明示的に分けられて記載されている必要があります。単に「基本給に含まれています」とするだけでは認められず、労働局から是正指導を受ける典型例です。

失敗事例③:地域指数・職種分類の「当てはめミス」

【よくある状況】 職種分類や、派遣先(または派遣元事業所)の地域指数の選択を誤っているケースです。特に、派遣スタッフの実際の業務内容と、協定で選択した職種コード(大分類・中分類・小分類)にズレがある場合です。
 あるいは、明確な理由なく大分類・中分類・小分類を職種によって使い分けているケースもまだ見られます。

【リスクと結末】 より低い単価の職種や地域指数を意図的(あるいは過失で)適用して一般賃金を低く算定していた場合、未払い賃金が発生しているとみなされます。労働局の定期監査で必ずチェックされる項目です。

失敗事例④:定期昇給(勤続年数に応じた昇給)の反映漏れ

【よくある状況】 労使協定方式では、「勤続年数(0年、1年、2年…)」に応じた一般賃金の階段を上っていく設計が必要です。「毎年、一般賃金の単価表は最新に更新しているが、同じスタッフの勤続年数カウントを更新せず、ずっと0年目の単価のまま据え置いていた」というミスです。

【リスクと結末】 長期稼働している派遣スタッフに対して、本来必要な勤続年数ごとの昇給が行われていないことになり、差額支給の是正勧告を受ける場合があります。

失敗事例⑤:協定書の「周知不足」

【よくある状況】 協定書を作成し、労使で調印したものの、本社の引き出しに保管したまま派遣スタッフへの周知を怠っていたケースです。

【リスクと結末】 派遣法第30条の4第2項において、協定の内容は派遣労働者に周知しなければならないと定められています。周知されていない協定は法的効力を問われる可能性があり、書面交付やWeb等での常時閲覧体制が必須となります。

3. 次回の更新で必ずチェックすべき「実務確認リスト」

次の労使協定更新に向け、貴社で今すぐ確認すべきポイントをまとめました。

  • [  ] 民主的な代表選出が行われているか (管理監督者を除外し、全派遣労働者を対象に選出目的を明記して挙手・投票等を行っているか)

  • [  ] 最新の「一般賃金通達」に対応しているか (厚生労働省から出される最新の公表数字を適用しているか)

  • [  ] 職種・地域指数の選定根拠が明確か (実際の業務内容と職種コードが合致しているか)

  • [  ] 通勤手当・退職金の支給方法と記載が適正か (実費支給か均等算定か、就業規則や雇用契約書に明確に区分表記されているか)

  • [  ] 全派遣スタッフへの周知が完了しているか (イントラネットへの掲載、マイページでの閲覧設定、書面交付などができているか)

まとめ:不安な場合は専門家のリーガルチェックを

「労使協定方式」は、一度運用に乗ってしまえば非常に利便性の高い制度ですが、その土台となる協定書や選出プロセスに1つでも欠陥があると、「協定全体の無効」という極めて大きな法的リスクを抱えることになります。

特に近年、労働局による派遣事業への調査では、労使協定方式の運用実態が厳しく精査される傾向にあります。

  • 「自社の過半数代表者の選出方法が法律上正しいか自信がない」

  • 「賃金表の改定や職種当てはめに間違いがないか確認してほしい」

  • 「最新の法改正に対応した労使協定書にアップデートしたい」

当事務所では、派遣労働者派遣事業に特化した社会保険労務士が、労使協定書の作成・チェックから、過半数代表者選出手続きのアドバイス、賃金体系の構築までトータルでサポートしております。

是正勧告を受ける前の「予防労務」として、ぜひ一度お気軽にご相談(労使協定の簡易リーガルチェック)ください。