厚生労働省が、平成31年3月28日付で、以下の会社の労働者派遣事業の許可を取り消したと報道発表しましたので、どういった事案であったかとわかる範囲での内容の解説をと思います。

労働者派遣事業の許可が取り消しになった会社の概要

社名 S社(報道発表では公表されていましたが、ここでは伏せておきます)
所在地 静岡県御前崎市
労働者派遣事業の許可年月日 平成30年6月1日

労働者派遣事業許可取り消し処分の内容

労働者派遣法第14条第1項の規定に基づき、平成31年3月28日付で、労働者派遣事業の許可を取り消すもの

労働者派遣法第14条は、許可の取り消しについて定めた条文です。第14条には、取り消しの理由として、労働者派遣法の第6条の各号に該当した場合と定めていて、今回は、これに該当したため取り消しとされました(後で解説します)。

労働者派遣事業の許可の取り消し処分の理由

S社は労働者派遣法第4第1項第2号及び労働者派遣法第59条第1号の規定に基づき、罰金刑を課せられたため、労働者派遣法第6条の欠格事由に該当したため

解説

今回、S社は労働者派遣法第4条第1項に違反したことにより、同法第59条に基づき罰金刑を課せられ、同法第14条に基づき、許可が取り消されました。労働者派遣法第4条第1項というのは派遣業界の方であれば、どなたもよく目にする条文ではないでしょうか。ご紹介すると

労働者派遣法第4条(分かりやすくするために一部省略しています)
 何人も、次の各号のいずれかに該当する業務について、労働者派遣事業を行つてはならない。
一 港湾運送業務
二 建設業務
三 警備業法第二条第一項各号に掲げる業務その他その業務の実施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣により派遣労働者に従事させることが適当でないと認められる業務として政令で定める業務

つまり、港湾総業務と建設業務、警備業務等には派遣を行ってはいけませんという規定です。
このS社は第2号違反でしたので、建設業務に労働者を派遣したことにより、派遣法違反とされ罰金刑にまでなりました。派遣法違反による罰金刑は、即、許可取り消しとなります。

当時の新聞報道も見つけましたので、その内容によると、このS社は、建設会社にS社の労働者を派遣し、その派遣労働者は浜岡原発敷地内での掘削作業など建設業務を行っていたようです。

以前、たしか福島原発に派遣していたとして、こことは違う会社が何社が派遣法違反で立件されたことがあるかと思います。原発作業に限らず、すべての建設業務(施工管理や建設会社の事務所の事務作業等はOKです)には、派遣をすることはできません。
ただ、今回に限らず、何十年も前から事実上建設業務に人を送る会社は存在します。いわゆる人夫出しや人工出しと言われるものです。
建設業は、元請けから一次下請け、二次下請け、三次下請けと複数の下請けが存在する場合も多く、元請けがすべての実態を把握するのが難しい場合もあります。きちんとそれぞれが請負契約を結び、実態としても請負として業務を行っているのであれば、もちろん問題ないのですが、実際には、元請けから指揮命令を受けたり、元請けの機械や道具を使うことも多く、派遣と判断されてもおかしくないケースが多いです。実際、人夫出しと言われるものの多くは、形態としてはほぼ派遣と同じ仕組みをとっています。

そのため、建設業関係では、しばしば、今回のような事例が起き、労働者派遣法違反で立件されます。過去に何件も立件されています。ただ、その多くは、そもそも労働者派遣業の許可を待たずに、人夫出しを行い、発覚して立件されます。おそらく、労働者派遣業を取ったところで、人夫出しは、適法にはならないので、取る意味がないと考えた結果だと思おうのですが、今回は、許可を取得したうえで行っていたので、建設業務以外へ通常の派遣も行っていた可能性も考えられます。
ただ、平成30年6月に許可を取得して、社長の逮捕が11月ですので、わずか5ヶ月ほどで発覚したのは、かなり早いので、どこからか通報があったのかもしれません。詳しいことは分かりませんが・・・

とにかく、これから労働者派遣事業を行う場合、あるいはすでに行っている場合は、港湾運送、建設、警備、医療関係への派遣はくれぐれも注意してください。一発で取り消しになる可能性があります。

労働者派遣法違反になるかどうか、きわどい業務へ派遣する場合は、当方でもコンサルティング可能ですので、一度、ご相談ください。