派遣元責任者の兼務に関するご質問が多いので、ここで解説させて頂きます。

(「要件を満たす派遣元責任者を確保」のページとともにご覧いただいたほうが良いかと思います)

派遣元責任者は他社の役員を兼務できるか?

原則として、派遣元責任者は、その許可を取得しようとする会社の専属専任である必要があります。
しかしながら、往々にして他社の役員にも就任しているケースはあります。

例えば、今回A社で派遣業の許可を取得しようとしているとします。A社の代表取締役(乙さん)が派遣元責任者として登録予定です。
この場合で、乙さんが、B社の取締役にも登記されているとすると、原則として乙さんは派遣元責任者にはなれません。
しかしながら、例えば、乙さんはB社の取締役としては、非常勤であり、実際にはB社の業務をほとんど行っておらず、B社の業務はB社の代表取締役や他の取締役が行っているということであれば、その旨の申立書を添付することで申請は可能です(つまりA社での派遣元責任者になれる)。

派遣元責任者が他社の代表取締役を兼務している場合はどうか?

では、次に、先の例で乙さんがB社でも代表取締役だった場合はどうでしょうか?
つまり、乙さんはA社でもB社でも代表取締役という状態です。
この場合、乙さんはA社での派遣元責任者になることはできません。
先の例のように、B社では代表取締役と言えども非常勤であり、他の役員や従業員に業務を任せているという旨の申立書を付けても、派遣元責任者になることはできません。他の社労士さんで、この場合でも通常の申立書を添付すれば、派遣元責任者になることができるとホームページ等に書いている方が見えますが、少なくとも愛知労働局ではなることはできません。
では、このような状態で、どうしてもA社で労働者派遣事業の許可を取得する必要があった場合、どういった方法があるでしょうか。
考えられる方法は、以下の3つです。
①A社での派遣元責任者を乙さん以外の別の取締役か雇用している労働者にする。
これが、最も簡単な方法です。派遣業の場合は、必ず職務代行者を1名用意しないといけないので、その方に派遣元責任はになってもらうのも一つだと思います。
②乙さんがB社の代表取締役を降り、他の方をB社の代表取締役にする。乙さんは、代表権のない通常の取締役になり、非常勤として申立書を添付し申請する。この場合は、最初に書いた事例と同じ状態なので、申請は可能です。ただ、登記も変更しないといけないので少し面倒ではあります。

一般的には上記の2つかと思いますが、今回、私どものお客様で実際にあった事例なのですが、乙さんがどうしても登記上B社での代表権を無くしたくない場合もあり得ます(つまり、乙さんはどうしてもA社・B社両社の代表取締役で居続けたい場合)。
この場合は
③乙さんはB社の代表取締役のままにし、B社の他の通常の取締役を代表取締役に引き上げる。つまりダブル代表取締役とする方法です(会社法上、代表取締役が複数存在しても問題ありません)。この場合ももちろん申立書を付けるのですが、この場合は、代表取締役の業務を含めて、もう一人の代表取締役にすべて業務を任せており、自身はA社での派遣元責任者の職務に専念できる旨の申立書を付けることになります。
つまり、代表取締役はその性質上、非常勤という扱いにはできませんが、例外的にもう一人代表権を持つ者がいれば、その者が代表取締役としての業務をすべて行うということで、乙さんはA社での派遣元責任者になることができます。この場合もB社の登記を変更しないといけないので、少し面倒ではあります。

派遣元責任者や職務代行者の兼務の問題は、労働者派遣事業の許可を取得する上で、結構ネックになる点です(つまりここで引っかかってしまう事例は意外と多いです)。
もし、派遣元責任者や職務代行者が完全にその許可を取得しようとしている会社の専属でない場合は、慎重に進めないと、土壇場で許可申請ができないということになりかねませんので十分注意してください。