厚生労働省が、平成31年3月28日付で、以下の会社の労働者派遣事業の許可を取り消したと報道発表しましたので、どういった事案であったかとわかる範囲での内容の解説をと思います。

労働者派遣事業の許可が取り消しになった会社の概要

社名 N社(報道発表では公表されていましたが、ここでは伏せておきます)
所在地 福岡県福岡市
労働者派遣事業の許可年月日 平成28年4月1日

労働者派遣事業許可取り消し処分の内容

労働者派遣法第14条第1項の規定に基づき、平成31年3月28日付で、労働者派遣事業の許可を取り消すもの

労働者派遣法第14条は、許可の取り消しについて定めた条文です。第14条には、取り消しの理由として、労働者派遣法の第6条の各号に該当した場合と定めていて、今回は、これに該当したため取り消しとされました(後で解説します)。

労働者派遣事業の許可の取り消し処分の理由

N社は労働基準法第37条第1項及び第4項、第119条第1号の規定に基づき、罰金刑を課せられたため、労働者派遣法第6条の欠格事由に該当したため

解説

労働者派遣法14条では、労働者派遣法第6条に規定する欠格事由に該当した場合は、許可を取り消すとしています。
労働者派遣法第6条に定める欠格事由の中に「労働者派遣法及びその他の労働に関する法律の規定であって政令に定めるものに違反し、かつ、罰金の刑が課せられたもの」というのが含まれており、今回このN社はその他の労働に関する法律に違反して、かつ、罰金刑が課せられたため、欠格事由に該当し、許可取り消しとなりました。
その他労働に関する法律とは、労働基準法や労働契約法など様々な法律がありますが、今回の事例では労働基準法第37条第1項及び第4項に違反し、その結果労働基準法第119条に基づいて罰金が科せられたことになります。
では、労働基準法第37条とはどういう条文でしょうか?
労働基準法第37条は簡単に言うと割増賃金に関する規定です。第1項は時間外割増賃金と休日割増賃金の定め、第4項は深夜割増賃金に関する条文になります。
つまりは、このN社は、時間外労働や休日労働、深夜労働に対し、割増賃金を支払っていなかったため、罰金刑を受けたことになります。
詳細な内容については、書かれていないので、どういった経緯で罰金刑になったかわかりませんし、派遣労働者に対し支払っていなかったのか、一般の労働者に対して支払っていなかったのか、あるいはその両方なのか分かりません。
ただ、一つ言えるのは、おそらく相当悪質な事案だったであろうということです。
割増賃金を支払っていなくて、労働基準監督署の調査を受ける会社というのは、相当数あります。実際、私の関与先でも調査が入り、過去に未払いの割増賃金を支払ったケースも存在します。それらの会社すべては、罰金刑まで受けてはいません。
通常、労働基準監督署からの調査により、違反事項が出た場合、是正勧告というのが出て、会社は、その是正勧告に基づいて、実態把握を適正に行い、未払いの割増賃金が発覚した場合は、適正に計算したうえで、対象労働者にその分を支払い、支払った証明と共に是正報告書を担当の監督官に提出して、通常は終了します。
つまり、出された是正勧告に対し誠実に対処していれば、通常は、罰金刑にまでならないケースがほとんどです。

もちろん、詳しい内容が公表されているわけではないので、どういった経緯で罰金にまでなってしまったかは分かりません。しかし、もし、是正勧告が出ていたのであれば、それに従い適正に割増賃金を支払っていればおそらく罰金刑にはならなかったと思われます。この会社は、派遣事業がメインの業務ではありませんでしたので、許可が取り消されても直ちに、業績に大きな影響がなっかたのかもしれませんが、もし、派遣業をメインに行っている会社であれば、許可の取り消しは、即倒産へ繋がりかねません。

現在、派遣会社をメインで行っている会社は、ぜひ、割増賃金や残業代が適正に支払われているか、今一度確認してください。放置していると命取りにになりかねません。

もし、ご心配の方は当方でもコンサルティング可能ですので、一度、ご相談ください。